研究の背景 江戸町人地に関する研究は,主に歴史学,社会学,経済学,都市学の分野などで蓄積されており,マクロスケールで捉えた観点から多くなされてきた。そのなかで,江戸において最も経済的な中心地であり,社会的にも高い位置であったとされる町人地日本橋に注目した。しかし,近世における日本橋地域の全体を取り上げ,空間的な分析は十分に行われてこなかった。
史料の吟味文政7年に大坂の中川芳山堂が出版した『
江戸買物独案内
』は,上・下・飲食之部の3冊に構成され,江戸全域にわたる商店の屋号,業種,商人名,所在地が記されている。『
江戸買物独案内
』は,何らかの理由で諸国から江戸へ来る人,あるいは,江戸で生活しているが地理的認識が欠けている人のために刊行された買物案内書である。江戸時代の社会・経済・風俗などの基礎資料としてその価値は非常に高いといえる。
しかしながら,近世における日本橋に関する膨大な情報が記載されていることにも関わらず,史料として十分な検討が行われていない。
研究目的以上のことから,本研究では,江戸全域にわたる商店が記されており,高い広告性を持つ『
江戸買物独案内
』に着目した。江戸時代の日本橋地域を研究対象として取り上げ,日本橋の都市プラン,土地所有,地域的差異を示した従来の研究動向を踏まえ,歴史地理学から捉えることにする。さらに観光的な機能という新しい観点を取り入れ江戸の日本橋地域の内部に関する研究を深化させることを目的とする。
具体的には,江戸時代における日本橋の商業活動の実態を明らかにしたうえ,その立地パターンを示す。
また,観光的な要素と特定し,分析・考察を行い,日本橋を訪れる観光者の買物行動の復元を試みる。
研究方法1.『
江戸買物独案内
』に記されてある日本橋の旧町名を調べ,町名変遷を行う。2.史料上の記載されてある業種による商店を集計する。3.業種による所在地を特定し集計をする。4. 1~3の段階で得られたデータを使い,業種による分布図を作成する。5.具体的な事例として,江戸時代に書かれた日記を通じて,日本橋に来る観光者の買物行動を復元する。
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