慢性うっ血性心不全と肝硬変の経過中に低T
3症候群を呈した68歳の男性に, 家族性と推定できなかった特異な低βリポ蛋白質 (βLP) 血症を認めた. Apo Bが20mg/d
l, 低比重リポ蛋白質 (LDL)が157mg/d
l, ポリアクリルアミドゲル電気泳動 (PAGE) でのβLP分画比が7%と異常低値であった. 低コレステロール血症, 低燐脂質血症だが, カイロミクロン (CM) の存在のためにトリグリセライド (TG) は正常濃度であった. PAGEで mid-band を認め, これにLp (a) リポ蛋白質〔Lp (a)〕の存在を確認したが, 濃度は18.3mg/d
lで対照と同等であった. Lecithin cholesterol acyltransferase (LCAT) と肝性リパーゼ (H-TGL) とリポ蛋白質リパーゼ (LPL) は低活性であった. Apo A濃度は正常なのに, apo Cと apo Eは低レベルであった.
著者のこれまでの成績では, 症候性低βLP血症や臍帯血の生理的低βLP血症の apo Cは大部分が高比重リポ蛋白質 (HDL) に分布しており, apo Eはその大部分がHDL-with apo Eすなわちα
2-apo Eとして存在していた. また, 甲状腺腫群では全 apo Eに対するα
2-apo E分画比と apo B濃度の間には, 密な逆相関関係が認められた. そして今回の検討で, 低T
3症候群患者でのα
2-apo E分画比は健康対照のものより高いことがわかった. ところが, 本症例では, apo C-IIIはCMとβLPにわずか存在し, 大部分はHDLに分布しているのに, apo EはCMとβLPにのみ分布していて, α
2-apo Eが欠如していた. この apo E分布は, 低βLP血症としては特異なものである. そこで, apo E分布に関与する因子を考察した結果, この特異な apo E分布の原因として, 主に, LPL活性の低下が推測された.
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