1. はじめに
長野県岡谷市の大川上流部,岡谷工業高校グラウンドがある小丘は,西側の山地からの地すべり地形と考えられる(図 1 および 2,井口,2013, 2015)。付近には,御岳第一テフラ(On-Pm1)が見られ(井口,2019a, b),本研究では,その高度分布から,大川地すべりの特徴と発生年代を考察した。
2. 御岳第一テフラの分布高度
On-Pm1 の分布高度を,大川地すべり小丘(C 地点)とその西側の山地で比較し,地形断面図で表したものが,図3である。西側山地から大川地すべり小丘にかけて, On-Pm1 の分布高度が急激に低下するのが分かる。 On-Pm1 は,約 10 万年前の噴出物とされる(下岡ほか,2009)。したがって,この地すべりが起きたのは,それ以降である可能性が強い。 澤ほか(2007)は,大川沿いに,糸魚川−静岡構造線に関連する北北西-南南東方向の活断層群の存在を指摘した。小丘を形成した地滑りは,この断層運動によって大川の谷が形成されたことに関連しているかもしれない。
On-Pm1 を含む火山灰層(いわゆるローム層)の下位には,更新統の塩嶺累層の凝灰角礫岩が堆積している。2006 年 7 月に発生した豪雨災害(平成 18 年 7 月豪雨)でも,岡谷市湊地区の塩嶺累層が崩れており,糸魚川−静岡構造線の活断層群によって形成された地形との関連が指摘されている(佐藤ほか,2006)。大川流域の地形と糸魚川−静岡構造線の活断層との関係の調査が望まれる。
参考文献
井口豊 (2013) 長野県岡谷市の塩嶺西山地域における断層と地すべり地形. 日本活断層学会2013年度秋季学術大会講演予稿集: 60-61.
井口豊 (2015) 3次元画像で得られた長野県岡谷市塩嶺山地における地形地質学的特長. 日本活断層学会2015年度秋季学術大会講演予稿集: 56-57.
井口豊 (2019a) 諏訪盆地西部における御岳第一テフラの高度分布. 日本地理学会発表要旨集 96 (2019 年度日本地理学会秋季学術大会): 124.
井口豊 (2019b) 諏訪盆地北西部の御岳第一テフラ高度分布から推定された糸魚川-静岡構造線活断層系の変位. 日本活断層学会2019年度秋季学術大会講演予稿集: 44-45.
佐藤浩・宇根寛・小荒井衛 (2006) 長野県岡谷市湊地区の土石流現場の地形的特徴について.国土地理院ウェブサイト「平成18年7月豪雨」関連 https://cais.gsi.go.jp/Research/geoinfo/okaya_debris.pdf 2020 年 1 月 18 日参照.
澤祥・谷口薫・廣内大助・松多信尚・内田主税・佐藤善輝・石黒聡士・田力正好・杉戸信彦・安藤俊人・隈元 崇・佐野滋樹・野
澤竜二
郎・坂上寛之・渡辺満久・鈴木康弘 (2007) 糸魚川−静岡構造線活断層帯中部,松本盆地南部・塩尻峠および諏訪湖南岸断層群の変動地形の再検討.活断層研究 27: 169-190.
下岡順直・長友恒人・小畑直也 (2009) 熱ルミネッセンス法による御岳第一テフラ(On-Pm1) 噴出年代の推定. 第四紀研究48(4): 295-300.
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