著者は既に文献1)において示差走査熱量測定 (DSC) によってパラフィン系変圧器油中のパラフィンワックス分の定量に成功し, パラフィン油の
流動点
, DSC結晶化ピーク温度と融解熱の間の関係を得たことを記し, DSC法がパラフィンワックス含有量を見積るのに最良の方法であることを示唆した。そこで, 著者は
流動点
降下剤を含有するパラフィン系変圧器油についてDSCを適用した結果を報告する。
ここで用いられたパラフィン系変圧器油は溶剤精製, 部分的脱ろう, 水素精製および白土処理のプロセスを経た通常の生産ラインで製造されたもので, その代表的な性状のうち
流動点
は-25°Cであった (
Table 1)。
流動点
降下剤として無極性のエチレン•プロピレン共重合体のオリゴマー (以下PPDと略す) を0.005ないし1.0%添加した試料を調製した。それらの
流動点
は-275°から-45°以下を経由して-27.5°Cであった (
Table 1)。室温から-100°Cまでと-100°Cから室温までの発熱および吸熱が精密なDSCによって測定された。そして結晶化ピーク温度や結晶化熱/融解熱が算出された。
PPDの添加量が0.15%のところで最低の
流動点
を示した (
Table 1)。
冷却条件の場合, 室温から-80°Cまでの結晶化熱はPPDに無関係にほとんど同一であり, 結晶化ピーク温度も同一であるが, PPD添加量とともに結晶化ピーク温度の近辺における形状の若干の相違が見出された (
Figs. 1~3)。加熱条件の場合も, -80°Cから室温までの領域において前記と類似の傾向を示した (
Figs. 4~6)。
パラフィン系鉱物油を冷却すると, パラフィンワックスの結晶が析出するとともに油分子を包み込み全体が流動性を失うプロセスにおいて, PPDが結晶化を阻害せず, その結晶の巨大化とゲル化に至る過程を抑えるという今までの定説がレビューされた。
さて,
Figs. 1~3の各グラフを (
Fig. 7) に示す手法によって, -30, -40, -50, -60および-80°Cを示す点とベースライン上の原点をそれぞれ結ぶ直線で囲まれた面積でそれぞれ区分することによって, -60°C以上の領域ではPPDの添加量とともに, その結晶化熱が減少するのに, -80°Cではそれに無関係に結晶化/析出が終了することが示された (
Fig. 8)。それゆえに, PPDがパラフィンワックスの結晶化を阻害する場合があることが指摘された。
次に, PPDの添加量と
流動点
の関係は, その添加量とともに急激に
流動点
が下降する領域と徐々に
流動点
が上昇していく領域に分けられた (
Fig. 9)。また, それぞれの
流動点
における結晶化熱を概算してPPDの添加量との関係を求めると, その添加量とともに結晶化熱が急増する領域と徐々に減少する領域に分けられた (
Fig. 9)。かくして,
流動点
の低下が結晶化熱の増加と結びつくところと,
流動点
の上昇が結晶化熱の低下に結びつくところに分けられた。後者はPPDの機能からいって無意味であるので, 前者の関係のみが明確な関係として示された (
Fig. 10)。これはPPDがパラフィンワックスの析出と動粘度の上昇をカバーして, なおかつ
流動点
を下降せしめることを示唆した。このようにDSCを用いることによって, PPDの効果が
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と結晶化熱の関係において把握され, その最適添加量をより精度よく決定することができた。最後に著者はPPDの作用に関する今までの定説を見直す必要性があることを示唆した。
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