当科では内転型痙攣性発声障害 (SD) に対し,甲状披裂筋切除術牟田法 (TA切除術) と甲状軟骨形成術2型 (2型) をどちらも施行しており,症例に合わせて術式を選択している。今回われわれは,性同一性障害 (GID) による音声障害を有するSD症例の手術治療を経験したので報告する。
症例は32歳女性である。基礎疾患にGIDがあり,2005年3月に性別適合手術を受け,その後戸籍変更も済ませていた。
以前より話声位 (SFF) が低いことで悩んでいたが,数年前から声のつまりが出現したため,2007年8月7日に当科を初診した。初診時の音声所見は,モーラ法にて11/21,SFF 133.3 Hz,最低音124.2 Hz,最高音418.2 Hz,MPT 21秒であった。
患者の希望は“つまりの改善とSFFの上昇”であった。TA切除術はつまりの改善とピッチ上昇どちらも期待できる。まずTA切除術を先行させ,ピッチ上昇効果不十分の際には甲状軟骨形成術4型 (4型) を追加するという手術を予定した。
2007年10月4日TA切除術を施行した。術後6カ月目の時点で,モーラ法では0/21でつまりは取れたが,SFF 200.1 Hz,最低音151.1 Hz,最高音364.1 Hz,MPT 12秒であり,さらなるSFFの上昇を希望したため,2008年5年27日4型を追加した。4型術後1カ月目には,モーラ法は0/21,SFF 244.8 Hz,最低音213.0 Hz,最高音322.4 Hz,MPT 8秒となった。
GIDのSD症例に対し手術を施行した。TA切除術はSDの改善に対しては有効であったが,GIDのための低音化音声障害に対しては効果不十分であった。そのため4型を追加し良好な結果が得られた。TA切除術と4型は併施可能な術式であった。
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