<はじめに>近年、教育や職場における男女の機会均等が進む中で家庭内での役割も性差が少なくなってきている。出産・育児に対して協力的な父親が増えてきており、出産準備教育にも夫婦で参加する傾向がみられる。
父性
は、わが子との関わりのうちに経験的に生成するものである。そして、妻のみならず夫自身が胎児に愛着をもち
父性
を成長させていくことは妻の母性も成長させ、夫婦にとっての出産、親としての準備性に強く影響するとの報告もある。しかし、母性に比べると
父性
についての発達過程等の研究は少ない。
そこで今回、父親になる気持ちが高まる時にはどのような因子が影響しているのかを明らかにするため、この研究に取り組んだ。
<研究方法>対象は初産の経腟分娩の褥婦の夫31名、帝王切開分娩の褥婦の夫20名、計51名。“父親になる気持ちを感じた時期や事柄”を問う独自に作成した25項目の自記式質問用紙と児に対する感情をあらわす花沢氏の48項目の対児感情評定尺度を分娩後2時間値観察時に配布し、妻の入院中、記入できしだい回収。それをもとに調査・分析を行った。実施については倫理的配慮を厳守のうえ行った。
<研究結果・考察>夫の年齢分布は、19歳から47歳と幅があり、平均年齢は30.6才であった。
父親になる気持ちが高まる時期をみると、妊娠前や妊娠中には低く、分娩から出産後にかけての時期に高くなっていた。このことから実際に子どもが出生し産声を聞いたり、見たり、触れたりすることで父親になる気持ちが高くなったと考える。また、分娩前においても胎児の姿を見たり、心拍を聞いたり、胎動を感じたことなど、夫が体験した時に父親になる気持ちが高まっていた。このことから
父性
を高めるために、妊娠中より胎児に関わり、接触する場を増やしていくことが重要である。
母親学級などの教育の場では父親になる気持ちを感じる人は少なかった。それに比べ育児雑誌を読んだ時や、出産・育児用品を準備している時は多い傾向にあった。
また、早い時期より父親になる気持ちを強く感じている夫には、今までに子どもの世話の経験がある、児に対しての接近感情が回避感情より上回っている、子どもを育てたいという感情が高い傾向があるということが分かった。
世話経験の有無と対児感情評定尺度の平均点を比較したところ、双方有意差は見られなかった。
また、立会いを経験した夫は拮抗指数が低い結果となった。このことは、児への否定感情が抑えられていることを示し、立ち会い分娩を経験することは、父親になる気持ちをより高める要因となることがわかった。
<結論> 1.子どもの世話経験の有無と夫自身が持っている対児感情が父親になる気持ちの発達を促す因子であることがわかった。
2.夫自身が、妻の妊娠中より実際に胎児を見たり感じたりすることが父親になる気持ちの成長を高める要因となる。
3.早い時期に父親となる気持ちが強くなると、育児行動が高まるという結果から、妊娠中から父と胎児が関わりをもてるように働きかけていくことが必要である。
抄録全体を表示