今日の日本社会において、「共生」という言葉は多義的に使用されている。言葉の起源としては、近代以降の浄土宗において仏教思想における縁起の法則をベースとした「共生(ともいき)」と、生物学における異種生物間の相互作用の様式を示す学術用語としての「共生(シンバイオーシス)」の 2つがあった。しかし、環境問題と人権問題が強く意識されるようになった 1980 年代頃から、それらの用法から派生した「課題としての共生論」として、実践的な環境学の場面において使用される「エコシステムとしての共生」と、人間社会における望ましい人間関係を示す「インクルージョンとしての共生」が広く使われるようになっていた。これらの 4 つの共生論について歴史的背景も踏まえて整理する。さらに近年では、これらの分類に収まらない用法として「物事との付き合い方としての共生」や「命を感じる存在との共生」といった文脈での使用も見られるようになっている。「共生」という多義性の強い言葉を十分な文脈なく使った際に、受け手によって異なる解釈がなされてしまっている現状を確認し、多様な共生論について体系化することで、用語としてのコンフリクトのない共生論の用法を論じる。
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