グローバル化の進行の過程では, ナショナリズムが, しかも悲劇的な形でしばしば登場する.それゆえ「経済対文化」という対立が描かれやすい.しかし, こうした対立は運命的なものではない.本稿では, フランスを例にとって, この国がEUという存在を媒介項としながらグローバル化に対応している現実を分析する.その内容は, 簡単に言えば, 経済的分野における「密やかなグローバル化」であり, 社会的分野におけるグローバル化との軋轢と調整であり, 文化的分野でのナショナルな主張の追求である.フランスは, EUという媒介項を得たおかげで, 上記の3分野の間の統一をなんとか維持し続けている.こうした過程は, 言い換えると, フランスがグローバル化という用語が登場する以前から, EUのなかでグローバル化を控えめな形で経験してきた過程であるといえる.今日, グローバル化の進行するなかで, 一種の緩衝地域ないしはセイフティーネットとしての新地域主義 (M. テロ) が広がっている (NAFTA, MERCOSUR……). 新地域主義の代表格であるEUは, 加盟各国に対してグローバル化を推し進める一方で, グローバル化への緩衝地域ともなり, セイフティーネットともなっている.また, EUの地においては, ATTACに代表されるような既存のグローバル化に代わる「もう1つのグローバル化」を求める多数の運動体を生み出してもいる.その意味で, こうした新地域主義は, グローバル化に適応し, かつそれに挑戦する用具を提供するものである.
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