男性中高年と特定地域の自殺が社会問題となっている.本稿ではアナール学派社会史のアプローチを採用して経年的検討を行い, 現状に至った歴史的経緯を把握する.理論枠組はMertonのアノミー解釈 (欲求と充足手段の乖離) を参照し, 自殺死亡の変動をアノミー状況の変化の指標と位置づけた.使用したデータは, 『人口動態統計』の, 1899年から2002年までの男女・年齢層・都道府県別自殺死亡率である.
検討の結果, 高度経済成長期の自殺死亡率が例外的に低いこと, 今日の問題状況はこの時期におこった構造的な方向転換によるものであることがわかった.日本全体は, 1960年代の急激な下降の後, 漸次的な上昇を続けている.性別では, 1960年代に男女差が縮小するとともに70年間続いた連動が終了し, 女性は緩やかに下降する一方で男性は上昇している.男性の上昇は50代とその前後に顕著であり, 経年加算的に高まる傾向がみられる.1960年代には地域差も圧縮し, その後は低水準を維持する地域と上昇する地域とに区別され, 「東海道ベルト地帯が低く, 低開発地域が高い」構成へと再編されている.
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