SD系ラット下顎切歯の新鮮な歯髄組織片と予め培養した歯髄組織片を, それぞれ同系ラットの頭部皮下に移植し, 経日的に歯髄の石灰化過程について組織学的ならびに組織化学的に検討した。移植日数は3, 5, 7, 10, 15, 20および25日とした。なお, 培養はRoseのchamberでmediumはTCM199を用い, それぞれ24, 48, 72時間行った。組織化学的検索はPAS, Alcian blue, Alzarin red S, Von Kossaについて行った。その結果は新鮮移植片では7日例のもので明らかな石灰化の所見がみられ, 以後, 経日的に石灰化は進展し, 20日以上になるとほゞ移植片全体が石灰化する。石灰化は移植片の周辺より順次, 中心部へと進展する。初めに石灰化する部では組織の変性像がみられ, 好酸性の均質無構造な帯状, 顆粒状ないし球状の小体が出現する。これらの構造物はPAS, Alcian blueで共に強陽性を呈し基質様構造物を思わせる。後にこれらの部を含む移植片は線維性組織となり, 2次的にCaなどのミネラルの沈着がみられ, Von Kossa, Alizarin red Sで陽性を示す。本実験では骨様ないし象牙質様の構造を示すものは1例も認められなかった。一方, 予め培養した移植片では24時間培養例では極めて著明な石灰化がみられたが, 48, 72時間培養例では, いずれも明らかな石灰化の所見は認められなかった。これらの例ではPAS, Alcian blueでは共に陰性ないし弱陽性を示し, 新鮮移植例と異り基質様構造物の出現ないし形成は認められなかった。このような状態のものでもVon Kossa, Alizarin red Sは共に陽性を示した。以上のような知見から異栄養性石灰化は組織の変性, 類壊死部が石灰化を起す部であることは明らかであるが, 石灰化に必要な有機性の基質様物質ないし構造のない急速に壊死に陥ったり, 組織障害の極めて強い場合には充分な石灰化が行われないことが示唆された。また対照実験として口腔粘膜片を移植したが, 20日以上経過しても全く石灰化はみられなかった。このことから石灰化に対する組織, 臓器のpotentialityに差異のあることがうかゞえ, 歯髄組織は石灰化に対するpotentialityの強い組織と考えられるが, この点については更に検討する必要があると考える。
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