昭和45年以降12年間に観血的治療を要した先天性股関節脱臼60例63関節を対象として各種療法と骨頭変形について, 臨床的並びに手術所見の検討を行ない, また手術時摘出採取した切除大腿骨頭靱帯の組織学的並びに走査電顕的検索を行い次の様な結果を得た.臨床的には, (1) 手術症例の当科初診時年齢の平均は12.3カ月であり, 早期発見, 早期治療の最近の原則に比べ遅れている症例が多かった. (2) 手術症例では, 臼蓋の形は扁平急峻型及び凸型で80%近くを占めた. (3) 手術症例の約3分の1に開排制限を認めず, 開排制限の有無のみで脱臼の有無を判定することは難かしい. (4) 先天股脱の観血的整復術のみでは求心位が得られず, 補正手術を追加したものが24%あり比較的多かった.手術前の治療法と大腿骨頭変形との関係をみると, 無処置例を含めて各治療群とも, 何らかのかたちで大腿骨頭靱帯が関与すると思われる変形を認めた.ギプス固定群では, 外からの機械的刺激による著明な骨頭変形を認めることが多く, 荷重による変形も無視出来なかった.切除した大腿骨頭靱帯の組織学的並びに走査電顕による検索では, (1) 大腿骨頭靱帯は骨頭側をZone I, 中間部をZone II, 臼底付着部をZone IIIに大別出来て, その病理的特徴よりZone Iは類軟骨の変化が主体で, Zone IIは結合織の変化, Zone IIIは血管系の変化が主体であった. (2) 先天股脱の治療法及び年齢などにより組織学的変化がみられるが, その主体は結合織の部分で, これらに血管系の変化が各Zoneに及ぶもの, 一部のもの, ほとんど認められないものに大別出来た. (3) R.B群, O.H.T群では, その組織像は, 無処置群と差を認めず大腿骨頭変形への関与も少なかった.大腿骨頭靱帯の走査電顕像では, 大腿骨頭靱帯は波状構造を有しており, 股関節の運動範囲に適した構造であった.又靱帯内に血管を有しており, これらは幼若な大腿骨頭の栄養に関与している事実が明らかにされた.組織学的に変性した靱帯は, その線維構造は失なわれており, これらが可逆性の変化とは思われず, これらが存在することは, 幼若な発育過程にある大腿骨頭軟骨に影響をあたえると考えられる.これらから先天股脱の骨頭靱帯は, 治療法年齢, 荷重, 機械的刺激により影響され, 骨頭変形にも関与するので, これに影響をさほどあたえないR.B法や, O.H.Tが先天股脱の治療法として良い方法である.
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