本研究は、地図に不慣れな者にも地域の空間情報を共有し、地域の問題に関心をもたせる手法を作り上げることを目的として、地図表現にイラスト技法を取り入れ、見やすく、親しみやすい地域情報地図を作成する試みである。事例研究として、三重県亀山市の猿害対策におけるサルの位置情報を共有するためのベースマップを作成した。
ここでは猿害対策として農地や住宅地へ出没するサルの追い払い防除活動が行なわれている。調査員がサルの居所をラジオ・テレメトリにより取得し、GPS付携帯電話で情報を発信している。また、住民からも電話により目撃情報を収集している。これらの情報は携帯電話メールとWebページにより、文字と地図で閲覧されている。効果的な防除のためには、サルの出没情報を住民が的確に把握することが望まれる。しかし、既存の地図では、読図に不慣れな者には場所の特定がしづらいため、情報の共有や普及に適した地図が望まれていた。
そこで、地図の情報がだれにでもわかりやすく受け止められることに主眼を置き、以下のように地図作成を行った。
・現場のニーズや状況を正しく把握するために、サル位置情報を調査し発信している市民に、情報提供の仕方、住民への口頭での説明時の道路、ランドマーク等を聞き取り、地域の環境や情報について討論し、描き方と描画要素を検討した。
・ ランドマークとなる施設や場所は、情報発信者や住民によって目印とされているものを中心に描いた。一目でわかるよう、その特徴を表したアイコンを作成した。名称は地元で通用している名称を優先した。
・地域の特徴が表現でき、景観的特徴が想起できるよう、地図表現を工夫した。
・位置関係、距離、方向が正しくわかるよう、また、Web-GIS処理ができるように、道路や河川はスケール通りとした。
・サル群の出没範囲とその周辺地域を中心とし、市民に将来的な注意喚起もできるように地図化する範囲を広く取った。
・情報の更新や共有を容易にするため、市販パソコンソフトを用いて作成した。描画要素はすべてベクトルデータ形式として、画面表示サイズ、配布用、掲示用など用紙サイズに応じて任意に拡大縮小してもきれいに出力できるようにした。
・猿害対策情報システム「サルどこネット」(http://www.sarudoko.net)と組み合わせて出没情報をさまざまな様式で閲覧および印刷して情報配布を行えるようにした。
このイラストマップにより生活や情報伝達でなじんだランドマークが具体的イラストで記されているため、会話や文章による位置の伝達がしやすく、直感的に位置や情報の把握が容易となると考えられる。この情報地図が多くの住民の目にふれる場に掲示されることによって、サルの出没場所・範囲、被害や対策の状況が把握されると同時に、関心を高めることによりさらに多くの情報が集まり、対策に向けた議論が活発となることが期待される。
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