1.はじめに各ジオパークで大学との連携が進んでいることと思われるが、その活用内容に関する情報の共有は必ずしも進んでいないようにも感じる。本報告は、その共有のきっかけ作りとして、金沢大学地域創造学類における筆者の白山手取川ジオパークの教育面での活用状況について報告したい。
2.専門教育での活用 筆者は、講義・実習などの授業および、卒業研究のフィールドとしてジオパークを活用している。
講義では、「自然環境と社会」において、毎年、ジオパークを取り上げ、白山手取川GPを例に地域環境と地域社会の関係性について講義し、ジオサイトの巡検を行っている。また、ジオパークに関するレポートを課している。
実習では、筆者の属する環境共生コース(コースは学類の下位単位)の2年生を対象とした「環境共生基礎実習」で文献調査およびプレゼン法の学習フィールドとしてジオパークを活用し、毎年、エリアの1日巡検を行っている。
卒業研究のフィールドとしても白山手取川ジオパークを活用している。筆者の属するゼミでは2011年のジオパーク発足後、20名の卒業生を出しているが、7名が白山手取川GPのエリアで調査を行い、内5名は調査に当たって、
白山市
ジオパーク推進室の協力を仰いだ。これらの成果の一部は、市民向け講演会の資料として活用するなどを通じて、ジオパーク活動に還元されている。
3.導入教育での活用 全学共通の1年次前期の導入科目として設定されている「初学者ゼミ」において、地域創造学類では、(簡単な)現地調査の計画立案と実施を課している。2014年度は著者と前述の社会学者が担当したことから、白山手取川GPをフィールドとして調査実習をおこなった。計画立案時に、
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ジオパーク推進室の職員にジオパークの概観と課題に関する講義をいただいた上で、現地調査の際には、担当教員がこれまでのジオパークにおける調査・研究の中で構築した人的ネットワークを活用し、実習補助をお願いするなど、ジオパークの全面的な協力をいただいて実施した。この場合、ジオパークツアーにおける地域産物の購買行動が持つ意味などを事前に学生にレクチャーすることで、ガイド・補助をお願いした関係者の店舗での購入を促すなど、「win-win」の関係を構築することに配慮している。
4.キャリア教育での活用 本学類の卒業生は、地域で活躍することができる地方公務員への就職を希望する学生が多い。中でも、環境共生コースでは、地域の環境の保全と環境資源の持続可能な活用に関心がある。そこで2014年度には、キャリア教育プログラムである「キャリア形成セミナー」に
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ジオパーク推進室の職員をお招きし、地方公務員としてジオパーク活動にかかわることの意味などのレクチャーを行っていただいた。学生からの感想文では、公務の立場から環境と地域づくりにかかわる実践的なレクチャーが、学生たちの就職に対する具体的な意識形成に寄与したことが読み取れる。
5.体験学習のフィールドとしての活用 正課の中で行われる上記のカリキュラムに加え、ジオパーク関係諸団体が行う活動を、学生の体験学習のフィールドとしても提供していただいている。
初夏には、推進協議会構成団体のひとつである手取川内水面漁業協同組合が行う、小学生を対象としたアユの放流事業の補助員として学生が参加する機会を設けている。こうした活動は、高齢化の進む地域において期待される「労働力」としての学生の力を提供する代わりに、学生自身の体験の場を提供してもらえる「win-win」の関係が構築できており、学生の学習と地域の活動の関係性の、ひとつのあり方と考えている。
6.学習での活用の成果と課題 ジオパークをフィールドに学習活動を行うことは、学生にとって、構築済の大学とジオパークの関係性を利用することができ、容易にフィールド学習を行うことができるメリットがある。また、多くの授業や活動でジオパークを取り上げることで多面的に地域に接する機会が増え、地域に対する理解度や関心が醸成されたことが、卒業論文でジオパークを対象に選択する学生が多いことで示されている。
一方で、この関係性を安易に利用することは、地域に過度の負担を求め、一種の「実習公害」を生み出す危険性を孕んでいる。日常的にジオパークの運営で協力関係にある
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ジオパーク推進室にはある程度の負担をお願いすることはありうるが、地域関係者に協力を願う場合には、「win-win」の関係の意識が不可欠であると考えている。
ジオパークを教育の場として活用するメリットは大きい。これを持続可能にするために、間に立つ研究者が汗をかいて関係性を構築・維持することが大切であろう。
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