われわれは, 難治性の前庭障害患者の体平衡を改善する新たな治療の一つとして, ノイズ前庭電気刺激 (ノイズ GVS) を利用したバランス改善機器の開発を進めており, 2つの自主臨床試験を経て, 現在 AMED の委託研究 (医療機器開発研究推進事業) として, 重度のふらつきを有する難治性の前庭障害患者を対象に, ノイズ GVS のバランス改善効果と安全性を検証する医師主導治験を進めているところである.
ノイズ GVS は, 耳後部に貼付した電極より直流電流を流すことで前庭神経を刺激する方法で, 微弱な入力信号に対する非線形の応答がノイズ様の相動的な刺激を与えることによって増強される, 確率共振現象を利用している. ノイズ GVS は, 痛みや不快感などの副作用を伴わない微弱な刺激でパフォーマンスを改善することが可能であり, 外科的侵襲を伴わず, 耳後部に貼付する表面電極と携帯型の刺激装置があれば, どこでも簡単に使用することができる, などの利点を有する.
われわれはこれまでの研究で, ノイズ GVS は, ① 短期刺激において, 刺激中に健常者および両側前庭障害患者のバランス機能を改善すること, ② 歩行速度を増大させる作用のあること, ③ 30分以上の長期刺激においては, 刺激中のみならず刺激終了後もバランス機能の改善効果が維持される, 持越し効果があることを示してきた. 現在進めている治験は, 前庭障害に基づく重度のふらつきを有する患者を対象とした, 二重盲検ランダム化プラセボ対照試験であり, ノイズ GVS のバランス効果の改善効果を検証する pivotal study である. 本稿では, これまでのノイズ GVS の開発の経緯について概説する.
抄録全体を表示