【背景】
諸外国では,医療行為の一環として動物介在療法(AAT)が多く実施されているが,日本では動物介在介入活動(AAI)に医療従事者が参加する場面は少なく,医療従事者のAAIに対する認知度も低いのが現状である.なかでも馬を用いたAAIでは,馬の揺れが騎乗者に直接刺激を与えるため,医療従事者の介入が望ましく,特に重症心身障害児に対する乗馬には,安全面からみても理学療法士の介入が不可欠と考えられる.重症心身障害児の乗馬については,乗馬時の介助が困難であるという理由から,安全に乗馬できる環境が少なく, 乗馬の効果に関する先行研究においても,知的障害児や軽度脳性麻痺児,健常児に関する報告はあるものの, 重症心身障害児の乗馬の効果に関する報告はほとんどない. 筆者らは,以前,乗馬により重症心身障害児の筋緊張が改善したと報告したが,本研究では,重症心身障害児の自律神経活動に与える影響について明らかにするとともに,介助方法の違いによる効果の検討も行い,介助方法の工夫によりさらに効果的な活動を実施することを目的とした,
【倫理的配慮】
対象児の保護者には口頭と書面にて十分に本研究の内容を説明し,書面にて同意を得られた後,測定を行った.
【方法】
乗馬方法は,乗馬経験のある理学療法士とともにタンデムで騎乗する方法(1)とサイドから理学療法士が介助する方法(2)の2通りとした.常歩で左右回りを7分30秒ずつ計15分間実施した.対象は,乗馬経験のある年齢8歳の女児,重症心身障害児2例とした.2症例ともに,粗大運動能力システムレベルⅤであった.自律神経の評価として,ポラール(RS800CX,ポラール社)を使用し, R-R間隔を周波数解析した.高周波成分(HF)を副交感神経活動の指標とした.乗馬前後にバギー座位上,それぞれ安静5分間の測定を行った.筋緊張の評価として, Modified Ashworth Scale(MAS)を用い,乗馬前後に安静座位及び膝関節伸展位で,両側腓腹筋を測定した.
【結果】
介助方法(1)・(2)ともに乗馬前後でMASでは痙性の改善がみられた.また,副交感神経の活性化が示唆された。介助方法(2)時よりも(1)時の方がより副交感神経が賦活化し,筋緊張を改善させるという結果となった.
【考察】
重症心身障害児でも騎乗方法を工夫することで,交感神経活動を抑制,副交感神経活動を賦活化させることが示唆された.また,重症心身障害児を持つ家族は日常生活上困難なことが多く,制約も多い.できないと諦めていた体験を提供することで,家族が社会へ参加するきっかけとなるのではないかと考える.
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