本研究の目的は鼻音化率計測装置ナゾメーターを用いて,鼻音化率(Nasalance score,以下 NS)を計測し,従来の言語聴覚士(以下, ST)による聴覚判定と比較し,鼻咽腔閉鎖機能(以下, VPC)を評価する際の有用性について検討することである。
対象は口唇口蓋裂患者 32例である。経験のある STによる音声言語の聴覚判定をもとにこれらの症例の VPCの 4段階評価を行った。そして, NS(母音「い」,子音「つ」,低圧文,高圧文)の平均値と最大値を求めた。また, STによる 4段階評価と NSについて相関係数を求めた。さらに, Mann-Whitneyの
U 検定を用いて,平均値の差の検定を行った。また, NSについて ROC解析を行い,Cutoff値と AUC値を求めた。
結果は, STによる VPCの判定では VPC良好 13例,ごく軽度不全 5例,軽度不全 10例,不全 4例であった。これらの結果をもとに,良好とごく軽度不全を良好 2群,軽度不全と不全を不全 2群とした。
NSはすべての刺激音・文の平均値と最大値において,良好 2群と不全 2群間に有意差を認めた。また,STによる 4段階評価と正の相関が認められた。 ROC解析では, AUC値は「つ」と高圧文の NS平均値・最大値が 0.9以上であった。 Cutoff値は各刺激音・文の NS平均値は 23%から 53%,NS最大値は 62%から 84%であり,幅があった。 AUC値から VPC良好 2群と不全 2群を分ける Cutoff値は, NS平均値において「つ」,高圧文で 20%台, NS最大値において,「つ」で 60%台,高圧文で 80%台が有用と思われた。 VPCを評価するうえで STによる聴覚印象と併用してナゾメーターを使用することは有用である。一方で,本研究は年齢,性別,疾患の重症度の統制を行っていないため,今回の NSの数値には限界があり,これらを今後の課題としたい。
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