【はじめに】
今回、投球時痛を主訴とする
社会人野球
選手の症例に対しリハビリテーションを行い、競技復帰が可能であったので報告する。
【症例紹介】
29歳男性、小学生から野球をしており、現在
社会人野球
チームに所属しポジションは投手。平成26年5月から腰部痛と右肩関節の投球時痛のため全力投球できないとの訴えあり、当院外来受診し月2回程度の外来リハビリテーションを開始した。Hopeは「競技を継続したい」であった。
【結果】
~初期評価~
〔画像所見〕
投球側の肩甲骨関節窩後方のBennett lesion、上腕骨頭背側頭に軽度のHill-sachs lesionの所見を認めた。なお脱臼歴の既往はない。
〔理学所見〕
主訴…加速期~リリース期における肩後方の痛みで、自動および他動ゼロポジション外旋位で肩甲上腕関節後方に疼痛の再現を認めた。
整形外科的テスト…Empty can test(+)
ROM…股関節内旋10°/15°
MMT…僧帽筋上部線維4/5 僧帽筋中部線維4/5
筋緊張…小胸筋(++)
〔投球動作〕
コッキング期において上位胸椎および胸郭の柔軟性低下により骨盤との分離並行運動が低下し、加速期では体幹の回旋が早期に生じており投球側の肩関節外旋位を保持することができず、リリース期には肘関節屈曲位での投球となっていた。投球を繰り返すと徐々に前胸部のつっぱり感が出現していた。
~最終評価~
〔理学所見〕
主訴…加速期~リリース期における肩後方の疼痛は軽減した
自動および他動ゼロポジション外旋位で肩甲上腕関節後方に疼痛の再現を認めた
整形外科的テスト…Empty can test(+)であったが疼痛の程度は軽減していた
ROM…股関節内旋35°/45°
MMT…僧帽筋上部線維4/5 僧帽筋中部線維4/5
筋緊張…小胸筋(±)
〔投球動作〕
加速期の骨盤と体幹の連動性がみられ、肩関節外旋位保持が可能となり、リリース期での肘屈曲は軽減していた。経過は、平成27年5月2塁手として練習参加、7月塁間での投球開始し50m程度を山なりの投球可、8月捕手として試合出場し、12月外来リハビリテーション終了となった。
【考察】
本症例は、投球時痛がゼロポジション外旋により再現され、その他の理学所見も統合すると痛みの原因は棘下筋、小円筋の筋力低下により肩関節外旋位が保持できず肘伸展運動が可能となる前に肩関節内旋運動で投球を行うことにより肩甲上腕関節に回旋ストレスがかかっていることであると推測された。そのため投球動作で問題点となった上位胸椎および胸郭の柔軟性の改善とそれに伴う肩甲骨の上方回旋・内転可動域の拡大、併せて投球動作指導を行うことで、股関節から体幹の回旋運動が円滑に行え、肩関節外旋位の保持が可能となり、肩甲上腕関節の回旋ストレスが軽減したことにより疼痛が軽減し、捕手としてではあるが試合出場が可能となった。投球障害肩に対しては、病変部位だけでなく全身的な評価をすることが必要であると考えられた。
【まとめ】
有痛性の投球障害肩は手術適応になることあるが、本症例は保存療法を実施することで競技復帰が可能であった。保存療法で効果的なリハビリテーションを行うことは、手術による選手の負担を回避するという点で大変重要であると思われる。
【倫理的配慮,説明と同意】
本報告は、ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則および人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に従い、対象者には研究の趣旨と内容について文章と口頭にて説明を行い書面にて同意を得た。また、製薬企業や医療機器メーカーから研究者へ提供される謝金や研究費、株式、サービス等は一切受けておらず、利益相反に関する開示事項はない。
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