神戸学院大学地域研究センターは、未曾有の被害をもたらした阪神・淡路大震災以後の地域社会における大学のあり方について、2002年度より実践的研究を行っている。筆者が所属する同センターの文化人類学分野ではその一環として、大学近郊の明石市
稲爪神社
の秋祭りの調査を行った。この祭礼は無形民俗文化財に指定されている伝統芸能の奉納と町回り、各町内会の子ども御輿を含む、複合的な地域のイベントであり、人類学を専攻する学部学生の調査実習も兼ね、例年多くの学生と共に参加し、次第にその参加目的は調査から祭礼の一部を担うようになっていった。それは調査を契機として始まった、大学と地域社会との関わり合いの中で、単なる観察者から祭礼の一部を担うものへのスタンスが変化していったといえる。こうした関係の変化は人類学的調査の特徴であり、またその「強み」なのではないだろうか。「フィールドワーク」という言葉はすでに人類学のみが用いているわけではないが、長期間にわたって特定の調査地域と関わり、その過程から関係を構築する姿勢は人類学特有のものであろう。ここで採り上げた事例では、「我々」調査者はいつしか「ある学生(若者)たち」の集団として認識されるようになり、やがて特定の役割を期待されるようになっていった。この段階においてすでに調査の域を越えているのかもしれないが、こうした相互作用こそが人類学的調査の持つ有効性であり、自らが属する地域社会"at home"において何がしかの事業や活動を行う際にその力を発揮するのであり、人類学を通じた社会との連携の可能性を示すものではないだろうか。
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