財政的に厳しい状況下では,入試広報戦略についても,費用対効果が明確に求められる。福島ほか(2011)では,入試広報手段の効果測定の一つのモデルを提示したが,一方で,効果的な手段はコストがかかることが課題となる。本稿は,大学訪問について,P大学の事例をもとに考察し,学生募集の費用対効果を上げることに寄与する手段であることを論じるものである。
2009~2017年に鳥取大学が参加した高校内ガイダンスにおいて個人情報を得た高校生の鳥取大学への志願状況を調査した。高校内ガイダンスで鳥取大学の説明を聴講した高校生の25.5%が,次年度以降の入試で鳥取大学を志願した。また,3年生に限定して次年度入試の志願率を調査すると28.9%だった。これらの結果から,高校内ガイダンスは,入試広報活動として一定の効果があったと考えられる。2010~2018年度入試の志願者のうち,高校内ガイダンスでの参加者の割合は,2.7%で,入試区分別による志願率に大きな差はみられなかった。
オープンキャンパスの入試広報としての有用性を検証するため,2010~2014年に鳥取大学で実施したオープンキャンパス参加者の鳥取大学への入試動向(志願,受験,合格,入学)を調査した。オープンキャンパス参加者の翌年度入試の志願率と受験率は20%台後半,合格率と入学率は10%程度で,参加の翌年度の入試だけでなく,数年後の入試にも一定数の志願者が存在したことから,オープンキャンパスが入試広報として有用であると考えられた。また,合格者に対するオープンキャンパス参加者の割合を入試方式で調べると,実施時期の早い入試方式では参加率が高かった。さらに,オープンキャンパス参加者の合格率を入試方式で調べると,後期日程が他の入試方式と比較して低かった。
2009~2019年に鳥取大学が参加した会場形式進学相談会において相談者で個人情報を得られたものの鳥取大学への志願状況を調査した。会場形式進学相談会で鳥取大学のブースで相談した高校生等の32.5%が次年度以降の入試で鳥取大学を志願した。また,翌年に受験可能な3年生以上に限定して次年度入試の志願率は33.5%と大きな差はなかったが,これらの結果から,会場形式進学相談会で入試広報活動として一定の効果があったと考えられる。2010~2020年度入試の志願者のうち,会場形式進学相談会での相談者の割合は,2.9%であった。また,早期に実施される入試区分の志願率が高かった。
琉球大学では志願者の獲得と高大接続・高大連携の一環として,沖縄県内の高校を対象に訪問型の大学説明会を行っている。しかし,令和2年度は新型コロナウイルスの感染拡大を受け対面での実施を中止し,Zoomを利用した双方向型のオンライン大学説明会を実施した。大学説明会には,沖縄県内41の高校が参加し,アンケートでは1084人分の回答が得られた。アンケート結果からは9割以上の参加者が大学説明会に満足しており,参加により志願意欲も高い状態となっていることが示された。 オンライン大学説明会はインターネット環境の制限があるものの,距離等の制限が少ない利点がある。 今後は訪問型と並行して,利点を活かしたオンライン大学説明会を開催することが考えられる。
志願者数の増減には各大学とも神経を尖らせ, 志願者確保に多大な労力を注いでいる。一方, 様々な攪乱要因によって志願動向が左右されている現実もある。本研究では29年間にわたる東北大学一般入試前期日程試験の志願者数等のデータに対して, 時系列データ解析の手法を適用し, 志願動向の隔年現象の析出を試みた。全受験者に対してはモデル適用の前提が満たされなかったが, 特定学部に対しては時系列データ解析の手法が有効で, 隔年現象が見出された。
大学入試広報は, どのように評価されるべきであろうか。筆者らは, 大学入試広報の果たす役割の重要性を鑑み, その効果を, 明確な基準をもとに可視化したいと考えた。本稿は, 受験期における高校生と大学との接触方法が, その後の出願, 受験, 合格, 入学等の受験行動に, どのようかにつながっているのかを分析することで, 大学入試広報の効果測定に関して, 一つのモデルを提示するものである。
これから入試広報活動を検討・再考しようとする個別大学が,入試広報戦略を策定するうえで,注意すべき論点についてまとめる。進学意識の情報収集を行い,入試方法戦略を策定していく流れのなかで,入学志願者動向および追跡調査を利用するとともに,地域性も検討する必要がある。個別大学の事例を報告することにより,入試広報活動を取捨選択する初期の段階で,広報活動一覧や入学志願者一覧などのデータベース構築が有用であることを示す。また,入試広報活動に付随する諸問題として,大学の情報発信・大学のセクショナリズム・人事異動などについてまとめ,打開策として上記のデータベースが役立つこと,共通事項として,広報活動の経済性・公益性についても論じる。
現在,我が国の大学において,大学入試広報活動は欠かせないものとなっている.入試広報は受験生への大学情報の提供を目的として始まったが,少子化の中,今は学生募集の意味合いが強くなっている.入試広報活動に関する研究は国立大学を中心に2000 年代に入ってから活発化している.中でも,入試広報の効果を探る研究が必要とされている様子がうかがえる.本研究では,東北大学工学部が10 年以上にわたって実施されてきたAO 入試Ⅱ期受験生を対象としたアンケートから,入試広報活動の効果に関わる項目について分析した.その結果,発信型広報の効果には受験生の出身地の地域差は見られなかった.対面型広報は東北地方出身の受験生の活用度が高かった.いずれも,年を追うごとに参考にする度合いが高くなる傾向が見られた.拡大する入試広報活動には限界や弊害も指摘されているが,大学志願者の進路選択への役割が大きくなっていることが示唆された.
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