本研究では, 寒天を用いてゲル-ゾル混合系モデル試料を調製し, 食品の基礎的な物性を検討することを目的とした.球状ゲルとゾル試料との混合系, さらにゾル単独試料の力学的特性と官能評価による飲み込み特性について検討を行い, 以下の結果が得られた.
(1) 濃度を3段階に変化させた球状ゲルの破断特性では, みかけの破断応力
Pfapp, みかけの破断エネルギー
Enappともに顕著な濃度依存性をもつことが認められた.
(2) ゾル単独試料の流動特性は, 粘稠性係数
K および降伏応力
Syともに寒天濃度の増加に伴い高値を示し, 寒天濃度が高いほど粘度が高く, 流れにくいことが示唆された.
(3) ゾル試料および混合系試料のテクスチャー特性において, 硬さ
Haはいずれの混合系試料もゾル単独試料よりも高い値を示し, 逆に凝集性
Coは, ゾル試料が混合系試料より高い値を示し, 濃度の低い試料ほど有意差が認められた.付着エネルギー
Eaは, ゾル試料, 混合系試料ともに寒天濃度の増加に伴い値も増加し, 寒天濃度の高い試料ほど有意差が認められた.
(4) 官能評価では, 「口中のまとまり易さ」以外の全ての項目で試料間に有意差が認められた.「口中で感じるかたさ」は, ゾル試料よりも混合系試料の方が「かたい」と評価されたが, 寒天濃度の最も高い試料 (dとD) は同程度に「かたい」と評価された.「口中のべたつき感」と「残留感」は, ほぼ同様の傾向を示し, 寒天濃度の低い試料問では球状ゲルを混合した方がより「べたつく」「残留感あり」と評価された.
「飲み込み易さ」では, 球状ゲルを混合した場合としない場合を比較すると, 寒天濃度が低い試料では球状ゲルを混合しない方が「飲み込み易い」と評価された.しかし, 寒天濃度が高い試料では逆に球状ゲルを混合した方が「飲み込み易い」と評価された.
(5) 官能評価から得られた「飲み込み易さ」と客観測定値 (硬さ
Ha, 付着エネルギー
Ea, 降伏応力
Sy, 粘稠性係数
K) との関係は, ゾル試料が客観測定値の増加に伴い「飲み込みにくい」と評価されたのに対して, 混合系試料は「飲み込み易さ」の評価があまり変化しなかった.
(6) 官能評価から得られた「飲み込み易さ」と他の項目との関係は, ゾル試料では「かたい」「口中のべたつき感あり」「残留感あり」と評価された試料ほど「飲み込みにくい」と評価された.しかし, 混合系試料では「飲み込み易さ」の評価は他の項目に依存せず, ほとんど同じ評価を示した.すなわち, 球状ゲルを混合することで「飲み込み易さ」の差が軽減することが示唆された.
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