1. はじめに-研究目的-ベトナム北部,
紅河
デルタは,その形成過程についてボーリングコアの分析等を用いた研究が進みつつある(Hori et al., 2003).しかしこれらの研究は海水準変動に対する沿岸域の応答に焦点を当てたものが多く,デルタの前進にともなう内陸部,主に河成堆積作用が卓越する地域の堆積環境を明らかにしたものはまだない.そこで本研究では,首都ハノイを含む
紅河
デルタ北部地域においてボーリング調査を行い,その分析結果および既往のボーリングデータ,地形分類図から
紅河
デルタ内陸部の完新世を通じた堆積環境を明らかにすることを目的とする.2.研究方法まず,デルタ全体において最終氷期以降にどのような堆積過程を経たのかを把握するため,全域に渡る地形分類図・地質断面図を作成した.また,河成作用が卓越しているハノイ周辺地域において2本のボーリング調査を行い,分析を行った. 3.
紅河デルタ北部地域の地形環境紅河
デルタは波浪作用の卓越する南部地域,潮汐作用の卓越する東部地域,河成作用の卓越する北部に分類される.北部地域はヴィエッチからソンタイまで砂質緩斜面からなる扇状地が形成され,ソンタイからハノイを経てフングエンまで自然堤防・後背湿地帯となる.ソンタイからハノイにかけてはダイ川分離以前の急流路が網状流をなし,両河川の形成した巨大な自然堤防が見られる.ハノイ以南からフングエン付近にかけて河川は大きく蛇行し,ポイントバーのような河道形態を呈する.4.ハノイ近郊におけるボーリングコアの解析DAコア
紅河
の後背湿地に位置する.8.7-7.2 cal kyr BPで海水準の上昇により潮汐の影響を受けていたこの地域は, 7.2-4 cal kyr BPにかけて
紅河
の河成堆積物が厚く堆積したが,それ以降は
紅河
の河道がほぼ現在の位置で安定し,後背湿地となる.PDコア
紅河
の支流,ダイ川の自然堤防上に位置する.8-7.2 cal kyr BP においてはほとんど塩水の影響を受けない環境にあった.5 cal kyr BP以降の堆積物は
紅河
氾濫原にあたるDAコアの2倍以上の厚さを持ち,この間に
紅河
・ダイ川の運ぶ土砂流動に何らかの変化がおきたことが考えられる. 5.まとめ –現在までの知見-
紅河
デルタ北部地域において完新世の環境変動がいくつかのステージに分けられることがわかった.8.7-7.2 cal kyr BPで海水準の上昇とともにハノイ付近まで潮汐の影響が及んでいたが,それ以降は河川の堆積活動が活発になり,現在地形分類図上で見られるような激しい河道変遷やダイ川の巨大な自然堤防帯は少なくとも5cal kyr BP より新しい時代に発達したものではないかと考えられる.
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