砂浜海岸は暴風,潮風,波浪,後背地の侵食に対する緩衝となるなど,陸地に対して様々な保護的な機能を果たし,また植物や動物に対して独特な生育環境を提供している.近年,自然植生を有する砂浜海岸は世界的に急速に減少しており,その生態系の保全が強く求められている.砂浜海岸の菌類相を調査することは,その生態系や生物多様性の保全を図る上で重要である.本総説では,筆者がこれまで日本の砂浜海岸の菌類相を調査する中で得られた知見のうち,ヒメツチグリ目,スッポンタケ目およびハラタケ目に属する菌類,特にヒメツチグリ属,スッポンタケ属,スナツブタケ属およびガマノホタケ属の種の分類や系統関係について紹介する.ヒメツチグリ属菌については,これまで筆者らの研究で新たに7種が追加され,既知の日本産種は21種となった.スッポンタケ属菌については,日本産のアカダマスッポンタケについて,証拠標本を残すとともに日本国内の分布を明らかにした.スナツブタケ属はこれまで日本で記録されてこなかったが,日本にも未記載種が存在することが明らかになり,ワタゲスナツブタケとして記載した.砂浜海岸に生息するガマノホタケ属,スナハマガマノホタケについて,日本各地の砂浜海岸に分布することを明らかにしたとともに,それらの系統解析を行った結果,本種が菌核の海流分散により分布を広げているという仮説が矛盾しないことを明らかにした.
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