脱落膜からのプロラクチン (PRL) 分泌調節機序は, まだ不明な点が多い.今回, 正常分娩例で得られた脱落膜組織を用い, インキュベーション実験を行い, 妊娠週数とともに増加する妊娠性ステロイドが, いかにPRL分泌に影響を与えるかを検討した.また気管支喘息を合併する妊婦8例に, 選択的帝王切開時, グルココルチコイドのbeta-methasone (β-M) を投与し, 母児並びに
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中のPRLとステロイド濃度を測定した.それらを非投与例の選択的帝切例と比較し, グルココルチコイドの母児および
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中の内分泌環境に与える影響を検討した.さらに, 帝切時得られた脱落膜のインキュベーション実験により, グルココルチコイド母体投与の脱落膜由来PRL (d-PRL) 分泌に及ぼす影響を検した.正常分娩例の脱落膜に, cortisol (F) 10
-7M~10
-5M, estradiol (E
2) 10
-6M, estrio1 (E
3) 10
-5M, dehydroepiandrosterone-sulfate (DHA-S) 10
-5M, ならびにβ-M2×10
-5M, をそれぞれ添加してインキュベーションすると, F添加によりd-PRL分泌の平均値は増加し, 無添加時を100とした時のパーセント変化率ではF10
-5M添加にて有意の上昇がみられた.また, F添加によるd-PRL分泌刺激効果はactinomycin D (AC-D) 添加により抑制された.一方, E
2, E
3, DHA-Sおよびβ-M添加にてその変化はみられなかった.β-M投与により, 母体血および
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中PRL値は低値を示したが, 胎児血PRL値に変化は認められなかった.副腎性ステロイドのF, DHA, DHA-Sは, 投与例にすべて低値を示し,
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(AF) のDHA, 臍帯静脈血 (UV) のDHA-Sを除くすべてのサンプルに有意差を認めた.同時に得られた脱落膜のインキュベーション実験で, 対照群と比較して投与例のd-PRL分泌は減少していた.これらの結果より, 母体に投与されたグルココルチコイドは胎児のステロイド環境に強く影響を及ぼし, さらに
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中PRL値並びにd-PRL分泌を抑制しているものと考えられ, Fがd-PRL生成分泌に関与している可能性を示唆している.さらに, Fにより促進される胎児肺成熟に,
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中のPRLも関与している事が推察される.
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