[背景と目的]マウス卵細胞は卵成熟や受精を経て細胞周期が進み,細胞の形態や遺伝子発現も劇的に変化する。しかしながら,卵成長後から受精直後までは転写は行われないため,この時期の遺伝子発現は
翻訳
によって制御されていると考えられる。卵成長が完了し転写の停止した成長卵には大量の母性mRNAが蓄えられており,その中には減数分裂の進行に必須な
Mosや受精後の卵割に重要な
CcnA2など,卵や初期胚で機能する遺伝子が多数存在することが知られている。また,母性mRNAの多くは3’UTRの配列によって様々な因子による
翻訳
制御を受けていることも報告されている。そこで本研究では,卵および初期胚において
CcnA2のUTRが時期特異的
翻訳
制御にどのような影響を与えるかを解析した。[方法]Firefly Luciferase CDSの上流に
CcnA2の5’UTR,下流に3’UTRを持つcRNAを作製し,成長卵もしくは成熟卵に対してcRNAを顕微注入した。顕微注入後,成長卵には体外成熟を行い成熟卵を得,成熟卵には体外受精を行い1細胞期胚を得た。得られた成熟卵および1細胞期胚におけるLuciferaseの
翻訳
量を比較した。[結果]5’UTRと3’UTRの両方を含むコンストラクトの
翻訳
は卵成熟前には抑制され,卵成熟後に促進された。受精前後では
翻訳
量に大きな差はなかったことから,
CcnA2のUTRは卵成熟前後での
翻訳
量制御に関与していると考えられる。そこでどちらのUTRが
翻訳
制御に関わっているかを検証するために,5’UTRまたは3’UTRの片方のみを持つコンストラクトについても同様に実験を行った。5’UTRのみのコンストラクトは卵成熟や受精に関わらず
翻訳
が抑制される傾向が認められた。3’UTRのみのコンストラクトの
翻訳
は卵成熟前には抑制されたが,卵成熟後に大きく促進され,受精前後では
翻訳
量に顕著な差はなかった。以上の結果より,
CcnA2のUTRは卵成熟前後での時期特異的
翻訳
制御を担い,その制御は3’UTRによると考えられる。
抄録全体を表示