介護保険法の対象は,「加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態」となったものであり,
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の対象者と重なる部分が多い. 介護保険制度において
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の関わりは多いが, 特に診断, 入院機能において期待されている部分が大きい. 物忘れ外来は, 科を超えて
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会の専門医の活躍が大きいと思われる. 入院機能を持つものの代表は, 老人性痴呆疾患センターがある. とかく入院は, 身体合併症が進行した場合や, 行動障害が著しい場合の受け皿としての役割を, 介護保険施設から期待される部分が多いが, 厚生労働省主導で, 小規模多機能施設を充実させ, 重度痴呆者や, ターミナルケアも行えるようにする研究が実行中であるので, その成果に期待したい. 介護保険制度の下,
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が取り組むべき課題は多い. 根本に関わる問題としては, 介護保険は, 利用者自らがサービスを選択し決定することになっているが, その元となる判断能力, 意思能力に対する基礎研究は未だ乏しい. 従来のように, 同居家族がすべて抱えこむ介護から, 社会で支える介護へ大きくシフトした以上, 従来のように, 家族の判断ばかりによるわけにはいかないだろう. 社会で支えるシステムになった以上, 個々の判断力を評価し, それが保持されている場合は極力それを尊重し (医療, ケアの選択など), 障害されている場合は, 自ら適切な医療やケアを受ける能力に乏しく, 自身を危険な状態 (セルフネグレクト) に陥れる可能性もあるため, 社会制度としてどう保護していくかの視点が必要になろう. また, 痴呆性高齢者に対するインフォームド・コンセントも未だコンセンサスを得ているとはいえず,
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会が中心となって研究, 社会啓蒙の双方に対して取り組むべきと考える.
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