本稿は,ひとり暮らし高齢者の生活実態を明らかにするとともに,高齢期のナショナル・ミニマムを保障するために必要な費用を示すことも目的にしている。なお,これらの分析は,全国労働組合総連合(全労連)加盟地域組織の協力を得て実施した最低生計費調査におけるひとり暮らし高齢者のデータに基づいており,最低生計費試算の手法は,マーケット・バスケット方式(全物量積み上げ方式)を採用している。 収入が,住宅,人付き合い,社会参加などに影響をもたらす傾向がみられた一方で,収入に関係なく高齢者にとって自家用車は必需品になっていること,経済的に苦しくても冠婚葬祭には無理をして参加している高齢者の生活実態が見出された。また,ひとり暮らし高齢者(新潟市在住,70歳女性)の最低生計費は月額約15万円(税・社会保険料を含まず)が必要であるという結果が得られた。この金額は,ひとり暮らし高齢者の平均年金受給額を2万円以上も上回っており,いずれかの費目を削らざるをえない高齢期の生活構造が垣間見える。
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