大脳白質の多発性梗塞後に自発話が停滞した失語症例を報告した。症例は 69 歳, 右利き女性であった。言い直しや語の繰り返し, 間投詞が多く自発話が停滞した。MRI では, 左中大脳動脈 (MCA) 起始部の狭窄と大脳白質の多発性梗塞を認めた。発話障害の機序を調べるため, 喚語能力と文構成能力, 発話に影響し得る前頭葉症状や注意機能, 思考過程の障害を評価した。視覚性・聴覚性呼称, 語想起の障害は軽度であった。一方で「自発話における」喚語困難を認めた。文の産生能力は, 表出性失文法の障害は明らかではなかったが, 文の構成能力の低下があり, 自発話の停滞に関与した可能性が考えられた。ほかに, 本例の思考の固着性や柔軟性の乏しさといった前頭葉症状の関与が示唆された。本例の梗塞巣は白質に限局していたが, 血流低下域は左前頭葉から頭頂葉, 側頭葉の広範に及んでおり, 左 MCA 領域広範な虚血による機能障害, あるいは白質梗塞による皮質間線維連絡障害の関与が考えられた。
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