近年における高齢化現象は, 同時に老人の尿失禁患者の増加を予想させる. これは相対的に減少するであろう家族等介護者の問題と失禁処理用品の経費の増加などの問題から社会的, 国家経済的にも問題になる事が考えられその対策が急がれている. これまで, 老人の尿失禁は管理主体の考えが強く, 医療からはむしろ遠ざけられてきたとも考えられる. しかし老人の尿失禁も単に歳を取ったから起きるのではなく, 本来何らかの異常があって始まるものであり, 医療の対象として根治し得るもの, 取り扱いを容易にし得るものが少なくない筈であることから, 将来に備えて医療の積極的な介入が必要と考えられる. ところがこれに対して, これから増加するであろう患者の全員を診断するには専門医の数がとうてい十分とは考えられない. そこで, 次善の策として, 可能なものは家族, 看護婦・保健婦に対拠してもらうように指導し, 必要に応じ, まず, 一般の医師に診てもらい, 更に必要ならば専門医に紹介してもらうのが良いと考えた. このためには, 一般の医師の強い協力が必要となる. そこで今回は専門以外の医師に老人の尿失禁を理解してもらえればという形で講演を進めた.
講演の内容としては, ごく簡単ではあるが, 排尿の生理, 特に神経系との関係, 正常と思える老人にみられる排尿機能の異常, 病的な尿失禁発現機転, 特に機能性尿失禁の関連, 薬剤の副作用による尿失禁等に触れたのち, 老人の尿失禁の捉え方, 特に複数の原因がひとつの尿失禁を形成している可能性のあることを理解しておく必要があり, 素因因子と促進因子の考え方を説明. 患者取り扱いの基本としてまず失禁を取り扱うことが嫌にならないように予め覚悟をしておくことを強調. 治療方針として, 一過性の尿失禁と確立した尿失禁の分類から前者の治療は専門的知識がそれほどいらないことからぜひ第一線で実施してもらいたいことを話した.
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