1.はじめに 大規模広域災害の発災時には公助だけでは限界があり、自分の身は自分で守ること(自助)だけでなく、地域や近隣の人々互いに協力しながら防災活動に組織的に取り組むこと(共助)が求められている(消防庁2017)。地域防災組織に関する研究では、防災活動の規定要因に着目したものが多く、日常的な地域活動が活発であるほど(藤田ほか2003;岡西・佐土原2006)、また江戸・明治時代からの住宅地や、地形的に水害に遭いやすい地域や、既往水害の経験がある地域ほど (春山・水野2007;春山・辻村2009)、防災活動が活発であることが示されてきたが、地域の社会的構造や関係性そのものを評価の対象とはしてこなかった(永松ほか2009)。 本研究では、令和元年東日本台風による洪水被害(以下、2019年水害)のみられた福島県郡山市を事例に、地域社会の基本単位となる住民組織の防災活動の内容を明らかにすることを目的とする。そして、住民組織による平常時の地域活動や土地条件に加えて、地域の社会構造や関係性について着目し、防災活動度を規定する要因について考察した。 2.対象地域と研究方法 福島県郡山市は、阿武隈川上流域に位置し、過去35年間で5度の浸水被害に遭遇した水害常習地である。本研究では、2019年水害で被災した8地区のうち、居住人口が多い以下の6地区を対象地域として選定した。対象としたA~C地区は1965年に郡山市に合併した町村(行政管区)で、D~E地区は1965年以前から郡山市に含まれている(旧市内)。 まず、対象地域の地形分類図並び複数時期の土地利用図を作成し、土地条件の整理を行った。次に、対象6地区の町内会・町内会連合会(以下、連合会)、その他防災関係組織を中心に地域組織の関係者への聞き取り調査を行った。さらに各地区の町内会への質問票調査を実施した(回答率は75%)。 3.郡山市の町内会・連合会などによる防災活動 郡山市の
自主防災組織
は通常連合会単位に設置されているが、町内会単位でも防災活動が行われており、消防団員や民生委員など特別職の非常勤職員の地域住民との間に連携もみられた。しかし、その活動内容や連携の在り方には大きなばらつきがみられた。また先行研究で指摘されたように、日常的な地域活動が活発な町内会は平常時の防災活動も活発な傾向にあることが明らかになったが、町内会全体では防災活動と土地条件との間に明瞭な関係は認められなかった。
4.対象6地区にみられる防災活動の差異とその要因 各々の町内会・連合会の防災活動は、対象6地区ごとに大きな差異がみられ、その背景には社会的構造に要因があると考えられる。本論では、人口・世帯数等の規模、行政センターの有無、
自主防災組織
の設置単位などから、新興住宅地の多いタイプⅠ(A・B地区)、農村地帯のタイプⅡ(C地区)、中心市街地に近接するタイプⅢ(D~E地区)に分類した。 タイプⅠの
自主防災組織
は連合会単位に設置され、行政センターと連携した防災活動を行い、消防団への防災資機材の提供や被災者支援事業などを行っている。しかし、同じタイプⅠでも、町内会・連合会の防災活動が盛んなA地区と、防災関連行事への地域住民の参加率の低さから行政への依存を強めているB地区があった。タイプⅡの
自主防災組織
は、連合会単位だけでなく町内会単位にも設置されるなど歴史的に水害への意識が高く、常日頃から行政センター・消防団・民生委員との連携がとられている。しかし、近年新興住宅地の増加や高齢化により町内会活動の維持が困難になりつつあることがわかった。タイプⅢの
自主防災組織
は連合会単位に設置されており、地区の地域活動や防災活動が盛んに行われている。しかし、行政センターがないため、災害時における防災活動および地区の消防団との連携はほとんどみられず、災害時の情報伝達や避難支援、避難所運営などにおいて課題を残した。
5.まとめ 地域の防災活動には、地域活動の活発さなどといった住民属性やそれに影響を及ぼす土地条件に加えて、地域の社会的構造や関係性が関係している可能性が示唆された。本研究では、郡山市の
自主防災組織
の災害時対応及び有機的連携における課題を指摘したが、そもそも
自主防災組織
は行政センターのように地区の災害対策本部の機能を担うべきか、また地域に存在する社会的組織との有機的な連携はどのように図るべきかについて、再考していかなければならないだろう。
参考文献 岡西・佐土原2006日本建築学会計画系論文集, No.609. 消防庁2017『
自主防災組織
の手引き』 永松ほか2009防災科学技術研究所研究報告, 74. 春山・水野2007自然災害科学26. 春山・辻村2009 E-journal GEO, 4. 藤田ほか2003都市計画論文集, 38.
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