【はじめに、目的】
急速な高齢化が進む我が国では、高齢者における生活機能の維持・向上が喫緊の課題である。生活機能低下の危険因子として、サルコペニアがある。先行研究では、サルコペニアの診断基準の一つである筋肉量に対し、個人の健康状態や健康関連行動のみでなく、外的要因である近隣環境も関連することが報告されている。一般的に、筋肉量は加齢と共に低下するが、生活機能低下や死亡リスクが上昇すると考えられる、痩せた状態にある高齢者の筋肉量に対しても近隣環境が影響するかは明らかではない。本研究の目的は、痩せに該当する地域在住高齢者において、近隣環境と筋肉量が関連するかを検証することとした。
【方法】
対象は、要支援・要介護認定を受けていない65歳以上の地域在住高齢者624名であった。除外基準は、データ欠損のある者、認知機能低下者とした。近隣環境の評価には、国際標準化身体活動質問紙環境尺度日本語版(IPAQ-E)を用いた。筋肉量は、生体電気インピーダンス法による測定結果をもとに骨格筋量指数(SMI)を算出し、Asian Working Group Sarcopenia 2019の基準(男性:7.0kg/m2未満、女性:5.7kg/m2未満)に基づき低下群と正常群に分類した。痩せの定義は、厚生労働省の日本人の食事摂取基準に基づきBMI21.5未満とした。その他の調査項目として、年齢、性別、既往歴、疼痛、運動習慣、抑うつ状態を調査した。
【結果】
全対象者/痩せ群の年齢中央値は71/73歳(四分位範囲:68-75/68-77歳)、女性は450/142名(72.1/78.8%)、筋肉量低下者は167/107名(26.7/59.4%)であった。調整済みのロジスティック回帰分析では、痩せ群を対象とする解析においてのみ、近隣に自転車レーンがあることが、筋肉量を正常に保つことと関連した(オッズ比:2.27、95%信頼区間:1.12-4.25)。
【結論】
近隣に自転車レーンがあることは、痩せに該当する地域在住高齢者の筋肉量を保つことと関連した。自転車レーンが整備され歩車分離が図られていることで、特に脆弱性の増した歩行者及び自転車利用者において安心感が増し、両者の身体活動を促進している可能性がある。国土交通省は、歩行者と分離された
自転車専用道路
の整備や自転車の活用による健康保持増進を推進しており、本研究の結果はこれらの施策を科学的に支持するものと考える。
近隣の自転車レーンを整備することは、痩せに該当する地域在住高齢者の筋肉量低下の予防に貢献する可能性が示唆された。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号2018-008B-2)。また、全対象者に対して書面にて研究参加に関する同意を得た。
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