近年の人文地理学においては,場所は以下のように再定義されている.第1に,場所は内的な差異と争いに満ちている.第2に,場所とはさまざまな相互関係の結び目として形成される.本稿では,日雇労働市場として知られる簡易宿所街「釜ヶ崎」を事例として,以上の場所の定義を検証する.1970年代の「釜ヶ崎」においては,労働運動と地域住民という集合的アイデンティティが互いに対立しながら表象され,このような差異や争いの中で「釜ヶ崎」や「あいりん」という地名は社会的に再生産された.また,2000年代については,コミュニティ運動や地域経済の再生の活動では「萩之茶屋」「新今宮」という地名が再発見される一方,アート運動の活動においては「釜ヶ崎」という地名が新しく意味づけられている.これらの地名は,場所の内側と外側を結びつける主体の能動的な働きにより生み出されている.また,その中には,境界を多数化させる作用が見出される.
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