野生イネの種子の長い芒は自然状態での繁殖に必要な形質の一つである.しかし,イネの栽培化において,長い芒は種子の収穫や作業の邪魔になるため,より短い芒を持つ個体が徐々に選抜されてきたと考えられる.そこで,無芒性のイネの栽培化過程を明らかにするため,
O. rufipogon W630(反復親)と
O. sativa IR36(一回親)間のBC
2F
7世代の146系統からなる戻し交雑自殖系統群を育成した.そしてそれらから,もっとも短い芒を持つG5系統を選抜した.このG5系統は,167のSSRマーカー座のうち20座においてIR36の対立遺伝子がホモ型であること,また野生イネの遺伝的背景において7箇所のIR36の染色体断片を持つことがわかった.そこで,この系統をさらにW630と交雑して,160個体からなるBC
3F
2植物を作出した.これらを圃場に展開し,第5小穂の芒の長さのデータに基づき,無芒性に関するQTL解析を行った.その結果,第2染色体上に弱い効果を持つ1カ所のQTLと第4染色体上に強い効果を持つ2カ所のQTLが検出された.さらに,関連するマーカーの位置情報から,第4染色体上の2つのQTLは
An-1および
LABA1と同座であること,また第2染色体上のQTLは新規のものであることが示唆された.これら3つの遺伝子座によって,
O. rufipogon W630とG5系統の芒の長さの違いがほぼ説明されるものの,まだいくつかの無芒性に関する微動遺伝子が無芒のIR36ゲノム中に存在すると考えられる.
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