本研究の目的は,清酒の需要開発に向けたネットワークの展開過程について,広島県を事例に明らかにすることである。特に規制緩和に伴う商品・サービス拡充期にあたる1970年代以降,中小零細メーカーと酒販店に焦点を当てて分析した。メーカー7社と酒販店8店からなる地酒会議は1994年に設立された。地元市場で認知を得るための活動が始まったが,この組織は2002年に発展的解消し,メーカーのみの目聞き会となった。一方,技術交流を志向する魂志会は,地酒会議設立のキーパーソンが深く関与して2004年に発足し,酒販店は時に助言者として参画することとなった。2018年,目聞き会はメーカーが17社に増加して分布域が全県レベルに拡大したのに対し,メーカー6社となった魂志会の分布域は比較的狭い。従来,酒造・酒販の組合はそれぞれ技術開発や販売促進を進めてきたが,メンバー間でも連携が十分であったとはいえず,組合の機能は限定的であった。それゆえ,中小零細メーカーは業種を越え,酒販店と連携するネットワークを独自に形成したことが明らかになった。清酒の需要開発は新たな段階を迎えたといえよう。また,消費者も自身や酒販店が開催する活動を通して,需要開発に重要な役割を担うようになった。
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