近年食生活の欧米化及び老年者人口の増加に伴い, 心血管系疾患が増加しつつある. 生活環境等の相違により, 高血圧及び虚血性心疾患の発生に如何なる差があるかをみる目的で, 1975年から1977年まで和歌山県下の山間と海浜の二地区で, 中・高年者計731人を対象に循環器検診を行い, その成績を検討した.
(1) 血圧に関しては全国平均よりやや低く, 両地区で差はみられなかった.
(2) 心電図異常と心血管系疾患による粗死亡率は, 山間地区で高値を示した. 2年間で心電図所見の悪化した例は, 高コレステロール群で頻度が高かった.
(3) 血清コレステロール値は, 山間地区に比べ食事中の脂肪摂取量の多い海浜地区で有意に高かった. 高血圧者の血清コレステロール値は, 正常血圧者に比べて高値を示したが, 年齢の差による影響が大きい.
(4) 眼底の高血圧性変化は血圧重症度の高いものに強い変化がみられ, 動脈硬化性変化は加齢とともに出現頻度が高かった.
高コレステロール血症を示すものでは, 虚血性心疾患の発症率が高いとの報告が多い. 本成績では, 海浜地区の血清コレステロール値は山間地区に比べ有意に高い値を示したが, 心電図異常と心血管系疾患による粗死亡率は山間地区で高値を示し, むしろ他の生活環境の差が関与していると考えられた. 従って, 一定範囲内の血清コレステロール値の差は, 虚血性心疾患の発生に直接影響を及ぼさないと考えられる.
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