インスリン自己免疫症候群は1978年までに22例報告されている。このうち薬物によって誘発されたと考えられている症例が5例ある。3例は1-methyl-2 mercaptoimidazoleであり, 1例はdiphenylhydantoinであり, 1例はα-mercaptopropionyl glycineであり, 今回我々が経験した症例はその2例目である。症例は71歳の男で, 昭和54年1月に低血糖による意識障害を主訴として当院に入院した.患者は長い間慢性肝炎の診断のもとに近医で治療を受けてきたが, 約3週間にわたってα-mercaptopropionyl glycineの投与を受けるまでは全く元気であった.さらに調べてみると約半年前に1ヵ月にわたってこの薬の投与を受けていることが判明した.患者血清中には大量のインスリン結合抗体が存在し, その性状はIgGでlight chain typeはK型であった.昭和54年1月, 2月, 5月, 9月に50gブドウ糖負荷を行い経時的に血糖, 総インスリン, 遊離インスリン,
125Iインスリン結合率, Cペプタイドが測定された.これらの検査結果や血糖の日内変動の推移は本症候群に特徴的であると考えられた。グルカゴンが高反応を示したがグルカゴン抗体は陰性であった.HLAはLocus AがA
9, Locus BがB
15とB
40であった.患者は
衛生兵
としての経験をもち, さらに糖尿病の母親に対して2年間にわたりインスリン注射を行った経験もあり, インスリンの自己注射が可能な立場にあったが本人はそれを強く否定した.
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