和泉層群は砂岩と泥岩の互層からなる大きな延性度較差をもった層状岩盤である。調査地域の和泉山地北西部は和泉層群の巨大な東西性向斜構造の北翼部にあたり, 地層は一様に約40度で南に傾斜している。そのため, 流れ盤側の斜面では, 重力の影響で層理面に平行に働く力によって, 地層は斜面下方に向かって滑り落ちようとするが, 最初から連続したひとつのすべり面が特定の部位に形成されるのではない。変形の初期には複数の泥岩層において, 層理面に平行な無数の微小破断面上ですべりが発生する。このとき, 斜面の基底部で地層が支えられていると, 表層の地層は斜面表面 (自由面) に向かって膨れだして岩盤クリープ性
褶曲
が形成される。岩盤クリープ性
褶曲
は自然斜面, 人工斜面のいずれにも発達するが, 典型的な構造は掘削後10~20年経た採石場跡の層理面に平行な掘削斜面で観察できる。岩盤クリープ性
褶曲
は一般に地表から数m以内の地層で起こっており,
褶曲
軸は斜面の走向方向とほぼ平行である。これらの
褶曲
は翼形態から, 対称
褶曲と非対称褶曲
に分類される。
対称
褶曲
は軸面に対してほぼ対称的な翼形態をもち, 翼間隔が160度以上の開いた
褶曲
構造である。この
褶曲
は斜面表面の緩やかなうねりとして現れる。向斜ヒンジの南翼側の砂岩層には, 対称
褶曲
の成長にともなって, しばしばほぼ水平に近い断層を生じ, その断層の上盤が斜面表面にせり出している。さらに, この断層と下位の泥岩層中の層理面に平行な断層とが連結し, それをすべり面とする岩盤すべりに発展している場合もある。
非対称
褶曲
は, 緩傾斜で長い北翼と急傾斜で短い南翼をもつ背斜構造である。非対称
褶曲
は砂岩泥岩互層とその直下の比較的厚い泥岩層とからなる斜面で岩盤クリープ変形が起こったとき, 対称
褶曲
から成長して形成される。北翼の地層は斜面上方に向かって徐々に傾斜角が大きくなり正常な地層傾斜に変わる。一方南翼の地層は, 翼の基底部に生じたスラストに沿って'斜面下方の正常な傾斜の地層の上にのし上げ, 斜面上に小急崖を形成している。ヒンジ部では北翼の上部の砂岩泥岩互層が厚い泥岩層の上面を滑って南翼にのし上げ, そのために厚い泥岩とその直上の砂岩層との間に間隙を生じている。厚い泥岩層はヒンジ部でさらに厚くなり, そこでは微
褶曲
や局部的な断層を伴う複雑な構造をしている。非対称
褶曲
の形成では, 砂岩泥岩互層の直下に存在する厚い泥岩層のヒンジ部への機械的流入が重要な役割をはたしている。また, 延性度の低い砂岩層では, 斜面の走向方向と傾斜方向に発達する2系統の広域節理に沿ったすべりと回転が比較的なめらかな曲面をもつ
褶曲
の形成を可能にしている。
和泉層群で岩盤すべりを起こしている斜面を詳しく観察すると, すべり面の下位の地層がクリープ変形していることが多い。岩盤のクリープ変形が岩盤すべりの先駆的現象であるという観点に立つならば, 斜面の安定性を評価する上で, 岩盤クリープ現象を解析することは極めて有効である。
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