【目的】
Saundersらが提唱する歩行の決定要因の5つある中で3つが骨盤運動に関するものであり,歩行における骨盤運動に関する研究は,リハビリテーションにとって重要な知見である.先行研究においてInmanら,Perryは,歩行時の骨盤回旋運動の大きさは,ステップ長の増大に貢献すると述べている.これまでの歩行時の骨盤回旋運動に関する研究は,角変位などの運動学的な知見が多く,速度の変化に対応する力発揮にどのように骨盤回旋運動が関連しているかという研究はない.そこで本研究は,歩行速度と骨盤回旋角度,角速度,
角加速度
の変化と,床反力前後成分との関連性を知ることを目的としている.
【方法】
健常成人6名を対象とし,1.3m/sと1.9m/sおよび2.5m/sの3条件の歩行において,3次元動作解析機器を用いて骨盤回旋角度,角速度,
角加速度
を算出した.立脚側の骨盤が前方に回旋する方向を「骨盤の内旋」と表し,逆に後方にでるように骨盤が回旋した場合を「骨盤の外旋」と表した.
歩行速度の変化と骨盤回旋角度,角速度および
角加速度
の関係を,反復測定の一要因分散分析を行い,そして主効果が得られた場合に多重比較を行なった.また相互相関分析を用いて骨盤回旋
角加速度
と床反力水平前後成分との同期性を検討した.
【結果および考察】
歩行時の骨盤回旋運動パターンは,先行研究と同様に,骨盤はほぼ最大内旋位で接地し,その後,立脚相で外旋しながら最大外旋位で離地した.そのように骨盤は接地から離地の瞬間まで外旋するので,外旋方向の角速度が観察された.
角加速度
は立脚期前半に外旋方向,後半は内旋方向の
角加速度
が示された.
歩行速度1.3m/sから1.9m/sへの変化で,骨盤回旋角度振幅は有意に増大したが,骨盤回旋角速度ピークと骨盤回旋
角加速度
ピークには有意な変化を示さなかった.また,その際のステップ長も有意に増大した.これは歩行速度の増加に伴うステップ長の増大に,骨盤回旋運動の大きさが影響したものと考えられた.一方,歩行速度1.9m/sから2.5m/sへの変化で,骨盤回旋角度振幅に有意な変化はなく,骨盤回旋角速度ピークと骨盤回旋
角加速度
ピークは有意に増大した.その際のステップ長とケーデンスは有意に増大した.この条件での歩行速度の増大は,骨盤回旋運動の大きさによってステップ長を増大させるというよりも,ケーデンスの増加に伴った骨盤回旋角速度の増大と,骨盤回旋
角加速度
によるものが影響していると考えられた.また,骨盤回旋
角加速度
の波形パターンは,床反力前後成分の波形パターンと近似していた.このことより,特に速い歩行において,歩行時の立脚期後半で支持脚の骨盤を前方へ回旋させる
角加速度
を産出することが,床反力の加速力を発揮し,歩行速度の増大に寄与しているものと考えられた.
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