日本語の引用表現では,「と」や「って」などの引用マーカーを用いた形式が典型とされることが多いが,本稿では,引用部分の直後に引用マーカーや伝達動詞が付かず,いったん切れた後で次のことばが続く「ゼロ型引用表現」について,政治家による演説をデータとして用い,どのような談話の流れの中で,どのような目的で用いられるのかに注目して分析する.ゼロ型引用表現は,他者の発言内容を客観的に報告することを求められるような状況において使用すると相手に違和感を与えてしまう表現であるが,他者のことばを題目として取りたててそのことばに対する評価を述べ,他者のことばに対する評価を聞き手と共有しようとする際や,他者のことばを臨場感豊かに生き生きと描き,聞き手を物語の世界に引きこむような際に用いられていた.
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