血液透析において透析液原液の希釈に使用する水道水には, 次亜塩素酸が含まれており, 透析患者の合併症の1つの貧血の原因となっていると考えられている. そこで, 透析液処理により貧血が改善するか否かを検討した.
透析液処理は, 1) 透析液原液10
lにアスコルビン酸を5gの割合で添加し水道水を希釈水として作成, 2) 透析液原液を
軟水
・活性炭濾過処理した水道水で希釈して作成, の2種の方法によった. 貧血改善の指標としては, ヘマトクリット (Ht) 値の変化を観察した. 変化を追うにあたっては, 季節変動を考慮してなるべく年間の同時期を選んで比較し, 尿素窒素 (BUN), クレアチニン, 総蛋白 (TP) 値についても検討を行った. また, 残留塩素量を測定し透析液処理による変化を比較した.
対象は, 昭和56年11月より昭和59年9月まで継続して透析療法を受けている男性12名, 女性8名の計20名. 年齢は, 昭和56年11月の時点で男性28-62歳 (平均42.6歳), 女性29-54歳 (平均41.1歳). 透析導入後の経験期間は, 男性0-88ヵ月 (平均30.7ヵ月), 女性4-119ヵ月 (平均53.9ヵ月) である. 未処理の透析液を使用する透析に比べて, 1), 2) の処理を行う透析においてHt値は有意 (P<0.05) に上昇し, おのおのの処理を比較した場合, 2) の透析で透析経験年数3年未満そして女性の患者にHt値の顕著な上昇を認めた. BUN, クレアチニン, TP値はHt値の変化とは関係せず, 尿毒素や栄養状態改善によるHt値の変化ではないことを示した. 残留塩素量を測定すると, 水道水では0.5±0.1ppm, 未処理の透析液では0.3±0.1ppmであったが, 1), 2) の処理透析液では検出限界以下であった. 以上のことから, 1), 2) の処理透析液を使用することにより貧血が改善され, そのうちでも, 2) の
軟水
・活性炭濾過処理透析液の使用が特に貧血改善に有効であると考えられた. またこれらの処理で, 溶血の原因と考えられている残留塩素が除去されることも確認された.
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