【要旨】寒冷凝集素症(Cold agglutinin disease)は,自己免疫性溶血性貧血の1種であり,冷式自己抗体を有する。この冷式自己抗体は,低温環境下で赤血球を凝集させ末梢循環不全を引き起こす。今回,人工心肺下冠動脈バイパス術中に寒冷凝集素に起因する赤血球の凝集を認めた1症例を経験した。症例は,不安定型狭心症と診断された73歳男性。体外循環を開始し,大動脈遮断後,血液と混和した心筋保護液を9~11℃ に冷却し投与した。投与終了後,心筋保護回路熱交換器の流出口から術野側回路内で血液の凝集塊を認め,術野先端部分からは凝集塊が流出した。心筋保護回路熱交換器を交換したが,再び血液の凝集塊が形成され,冷却に伴う寒冷凝集反応が疑われた。術者の指示を受け,設定温度34℃の常温体外循環に移行したところ,以後,血液凝集塊は形成されず,体外循環を離脱終了した。本症例のように,寒冷凝集素の存在が術前検査で判明していない場合があり,体外循環中に赤血球の凝集を認めた際,血液凝固とともに寒冷凝集素の存在も考慮して対処する必要がある。
抄録全体を表示