大町登山案内者組合(現大町登山案内人組合)は1917(大正6)年、百瀬慎太郎の主唱によって信州・大町で設立された。同組合は国内における山岳ガイドグループの先駆けで、2017(平成29)年に創立100周年を迎えた。その設立経緯を最も良く伝える文献が設立前後に発行された日本山岳会機関誌『山岳』である。
同誌からみえてくる設立当初の実像は、慎太郎の生家である旅館・對山館(ヤマチョウ旅館)に、それまでの登山案内
等を通じて出入りした大町近在者らの集まりであった。そこでは登山案内という同職集団としての性質は薄く、慎太郎が親しくしていた山人を中心とした山に関わる近在者たちが寄り合い、その中で互助・研鑽しつつ、登山案内人の質と量を確保し、安定的な供給を目指すものであった。
同組合の設立には、慎太郎の先代から對山館で培われてきた地元山人との密接な関係性が深くかかわっていた一方、慎太郎個人として思い描いた登山案内人像の理想が込められていた。当時の他山域における登山案内人の組織化への波及効果や、設立後1世紀を経た現在における当地の山岳観光振興を顧みれば、その先見性は特筆に値する。そこには、慎太郎が自身の家業のみならず、公の視点に立って設立を敢行したことがうかがえる。さらに、その背景をみると、同組合設立は地理的かつ時間軸による要因が重なり合う中で必然的に具現化された事象であったと捉えることができる。
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