現代に江戸時代の名残を残す、大相撲にまつわる文化は、知れば知るほど奥深く、興味深い。相撲という競技をより魅力的に見せるために磨きぬかれた工夫、知恵、技術、美意識が、ふんだんに盛り込まれているからである。私はこの大相撲にひかれ、これまで力士たちの日常生活に息づいているマゲと着物について研究してきた。次に、相撲界から世間に発信、そのイメージを形づくっているものとして私が注目したのが、番付を書くのに用いられている独特の肉太書体の「相撲字」である。歌舞伎の看板文字が、華やかで充実した役者の表情と舞台を見事に象徴しているように、相撲字は大相撲のイメージ表現に最適の文字となっている。もともと番付は江戸時代、大相撲興行の招き看板として始まったもので、力士名をランク順に並べて書したものである。そのうち木版刷りの印刷物となり、ポスター、チラシ的な力を発揮するようになり、現在に至っている。単に地位と出身地、名前しか書いていないものなのに、相撲の番付表は視覚的なインパクトが大きい。それはその墨黒々とした手書きの力強い文字の意匠からくるものである。やがて相撲字は、土俵周りではもちろん、さまざまな場面で用いられ、大相撲文化の公用字、いわば包装紙ともなっている。本稿は大相撲のタイプフェイスである相撲字の特徴と魅力を探り、その新たな活用法等について考究していく。
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