目的:江戸時代では,各藩に専属の医師団(御懸かり医師)が存在し,藩主一族の治療や施薬に従事していた.しかしながら,彼等が使用した常備薬の品名や対象者についての実態は不明であった.その解明をするために美濃国苗木藩の史料を用いて具体的に述べたい.
方法:苗木藩の史料「御家方御薬帳」(天保2年)の全文を解読・考察することで,他藩では不詳である実態を明らかにし,藩医師団の勤務内容(医薬品の管理・活用)を示したい.
結果:苗木藩では,藩主一族の専用薬として5種類の漢方薬が常備薬として管理・運用されており,使用薬品名,使用年月,使用目的,薬品の分量,管理責任者・医師名が正確に記録されており,大変貴重な内容であった.
結論:「御家方御薬帳」の開始された時期は天保2年(1831)であるが,それまでの記録も記載されており,寛政3年(1791)から明治2年(1869)までの内容であった.上記の結果から,当時の医師は薬剤師と獣医師の役割を兼ねていたことが明らかになった.藩常備薬は御用医師により厳正・適正に管理されていた.苗木藩の常備薬は(1)息命丹(2)延寿丹(3)赤龍丹(小児薬)(4)呼吸丹(5)奇応丸(小児薬)の5種類であった.
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