アリル水素を有するアルケン類と一重項酸素 (
1O
2) との反応 (Schenck反応) は二重結合のアリル位を酸化する反応の一つであり, アリル位への酸素官能基の導入法として有機合成上有用な反応であるとともに, 生体分子の酸化など生理現象にも大きく関与していることが明らかとなってきた. 本研究では, Schenck反応の機構や置換基効果に関する知見を集積・解析し, 反応性, 位置・立体選択性の予測 (主要酸化生成物の予測) および生体分子の酸化機構の解明に役立てるため, いくつかのアルケン類と
1O
2との反応についてad initio分子軌道法による
遷移状態
の構造最適化を行った.
本研究より, 二重結合炭素上のメチル基置換によりSchenck反応の活性化エネルギーはメチル基の数にほぼ比例して減少し,
遷移状態における構造パラメーターは早い遷移状態
に移行することが示された. これらの結果は, 電子供与性基がSchenck反応に対するアルケンの反応性を増大させることを示している. 特に, 酸素原子 (O
2) が付加する炭素上の置換基は活性化エネルギーに大きく影響するのに対し, O
1により引き嫁かれる水素を持つ炭素上の置換基は活性化エネルギーをほとんど変化させないことがわかった. メチル基の置換部位により
遷移状態
におけるアルケンと酸素分子の相対配置が変化するなど三次元構造にいくつかの系統的特徴が見いだされ, 立体選択性を予測する上で重要な情報が得られた. さらに, ビニル置換体 (9a-b) およびホルミル置換体 (11a-c) と
1O
2との反応においてもアルキル置換による活性化エネルギーの低下が見られ, 膜脂質や不飽和脂肪酸の過酸化反応において, アリル位の酸化が
1O
2のような活性酸素により容易に進行することが理論的に確かめられた.
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