前報では,サブサハラアフリカ(SSA)産の高ケイ酸質低品位リン鉱石のリン溶解特性は,炭酸ナトリウム添加をともなう焼成処理によって大幅に改善できることを,ブルキナファソ産リン鉱石(BPR)を供試して明らかにした.そこで本研究では,得られたBPR焼成物(CBPR)の施用が作物生育ならびに土壌環境におよぼす影響を明らかにすることを目的とした.
つくば市の温室内で,トウモロコシおよび水稲を対象とした2種類のポット試験を実施した.両試験ともに市販の赤玉土に各種リン資材を施用した培土を無底穴のワグネルポットに充填した後に,トウモロコシを畑条件,水稲を湛水条件で栽培した.
各種リン資材を十分量(0.94gP kg-1)施用した試験では,CBPR区は
重過リン酸石灰
(TSP)区に比べ,作物生育が抑制された.CBPR区では,生育初期の土壌溶液中リン濃度が,一時的に有意に低い値を示し,作物の栄養生長初期に十分なリンを供給できなかった可能性がある.
一方,CBPR区の栽培跡地土壌の可給態リン含量は増加し,その程度はTSPを同量施用した場合と有意な違いはなかった.以上の結果からCBPRは土壌のリン可給度の向上に関してTSPとほぼ同等の効果を持つことが示された.しかし,CBPRは,TSPとは異なり,栽培跡地土壌の交換性ナトリウム含量を有意に増加させ,pHとECを有意に上昇させた.こうした土壌環境の変化が作物生育を抑制したと考えられた.
続いて,施用量を段階的に変えた試験では,CBPR施用量を一定程度減量した場合,トウモロコシ,水稲ともに十分量施用条件に比べて生育は良好であった.トウモロコシでは,施用量を低減した場合でもTSPに比べて乾物重が低かったが,水稲では2gP2O5pot-1の条件では,TSPと同程度の乾物重が得られた.本試験の条件では,CBPR施用におけるリン最適施用量は,トウモロコシが0.5gP kg-1,水稲が0.3g Pkg-1であると推定された.
CBPRは強アルカリ性(pH11程度)であり,ナトリウム塩を多く含むことから,CBPRの多量施用や連年施用によって,これらが土壌に集積し,作物の吸水阻害や,土壌pH上昇等の土壌環境の悪化を招く可能性がある.今後,サブサハラアフリカでの圃場試験によってCBPRの施用効果を評価し,その最適施用条件を検討する場合には,作物の生育や収量だけでなく,土壌の塩基バランスとpHにも留意する必要があると考えられた.
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