密度がslowly cooled>melt quenched>CO
2-conditionedの順に小さな三種のポリフェニレンオキサイド(PPO)試料を調製し,XeおよびCH
4収着測定,ならびに種々の
129Xe,
1H NMR測定を行った.得られた種々のデータから収着気体の拡散挙動を詳細に評価し,PPOのガラス状態の微細高次構造を議論した.収着等温線と
129Xe NMR化学シフトの解析から,slowly cooled<melt quenched<CO
2-conditionedの順に未緩和体積部分が多い,即ち非平衡性が拡大したガラス状態にあることがわかった.NMRスペクトルにおける収着気体のピーク線幅は圧力増加とともに減少した.この変化は,互いに異なる拡散性を呈する二つの収着気体を仮定すれば半定量的に解釈でき,圧力増加とともに収着気体の拡散性が増大する現象を説明できた.この線幅に関する解釈により,拡散性が,slowly cooled<melt quenched<CO
2-conditionedの順に増大することも確認された.複数の拡散成分を実験的に確かめる目的で,拡散挙動の観察時間を数百µsにまで短くできる,スピン–スピン緩和時間,
T2測定を行った.収着気体のNMR信号強度は単一指数減衰を示し,
T2は見かけ上一個の数値として得られた.この見かけの
T2の長短と収着実験から得られる見かけの平均拡散係数の大小とは,温度および圧力,ガラス状態の相違,それぞれの観点で定性的によく一致し,収着気体の
T2はその拡散性を知る良い指標といえた.一方,
T2測定時に得られるスペクトルのピーク線幅は緩和過程とともに減少したので,収着気体の
T2緩和の実体は多成分系といえた.言い換えれば,平均拡散移動距離に換算すると数十nm程度に相当する短い観察時間では収着気体の拡散は多成分系である.この拡散挙動から,PPOのガラス状態の微細高次構造は数十nmレベルで不均一なものと推定された.この不均一性の程度は,slowly cooled<melt quenched<CO
2-conditionedの順で拡大していた.
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