化学物質のリスクとは「有害性x曝露量」と言われるが、有害性と曝露量の評価の姿は大きく異なる。化学物質の有害性評価の殆どは、動物実験から導出された無毒性量やベンチマークドースを基にしている。動物実験やデータ解析方法はOECDテストガイドラインなどで標準化され、世界中ほぼ同じ考え方で行われる。従って、評価機関が違っても有害性評価の値は同じということも起こりうる。しかし、曝露量は国や地域によって異なる。特に、食品から摂取の場合、食材や調理法に国ごとの特色があり、摂取量の詳細な評価が必要である。
食品安全委員会はアクリルアミド(以下AA)の食品健康影響評価を実施したが、この際、AAは加熱調理により生成されるため、わが国固有のAA摂取量の推定が特に必要と考えた。そこで、国立環境研究所、
鈴木規之
センター長と河原純子博士を代表とする2つの研究班が、食品安全委員会の援助を受けて摂取量を推定した。
AAの食品からの摂取量(x)は、
x = ∑(食品中のAA濃度ix食品摂取量ix食品摂取頻度i)の式から算定した。食品摂取量と食品摂取頻度は平成24年国民健康・栄養調査から推計し、また、食品中のAA濃度は農林水産省や厚生労働省の調査データを用いたが、特に必要な食品のデータは食品安全委員会が独自調査した。摂取量の推定は、①モンテカルロシミュレーションによるAA摂取量の分布、および②AA摂取量の平均値、について行った。
その結果、研究班は、①摂取量の分布を、中央値0.154、95パーセンタイル値0.261、平均値0.166 µg/kg体重/日、また、②平均摂取量を、0.158 µg/kg体重/日と推定した。さらに、食品安全委員会は、新たに得た炒め野菜中のAA濃度データを用いて、平均推定摂取量を0.240 µg/kg体重/日と提示した。後者の平均推定摂取量は海外と同様か低い値であり、内訳は高温調理した野菜(炒め野菜)が56%、飲料(コーヒー、茶類)が17%を占めた。わが国における摂取量調査の意義と課題を議論したい。
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