今日の我々の関心は,アジアの社会変動をアジアにおける固有の歴史的経験と社会構造から説明することにある。1930・40年代は,アジアの社会学者・人類学者がアジアを自らの概念と方法でもって研究しようとした時代であった。彼らの研究のアスペクトは,今日の我々と共通するのではないかと考える。本論では,今日の我々の構想と方法を映し出してみるために,費孝通のアスペクトと概念の構成を検討する。費孝通は中国社会の構造を描き出すのに,母国語の語彙の中から個性的な概念を紡ぎだした。これは,人類学・社会学の一般概念が成立する本源への遡及と,母国の文化による概念の彫琢とを通じて可能となっている。つまり,中国社会を人々の観念の中から研究する個別主義と,中国社会研究から得た新しい知見でもって西洋の人類学・社会学の概念を再構築するという普遍主義とが相互に結び合って,費孝通のユニークな理論を構成している。
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