はじめに:琉球列島ではトカラ列島小宝島以南の島々(奄美大島などを除く)とその周辺海底に主に第四系更新統炭酸塩堆積物からなる琉球層群, いわゆる琉球石灰岩が分布しており, カルスト地形がよく発達する. カルスト地形の主体をなす石灰岩洞窟(
鍾乳洞
)については沖縄県が分布調査を実施して県内に300以上を確認している(沖縄県教育委員会、1977など)が, これまでカルスト地形形成と海面変動との関係についてはほとんど研究が行われていない.
研究目的:本研究は沿岸域に分布する琉球石灰岩に形成されたカルスト地形について, 海面変動の影響とカルスト地形の変遷を考察する資料を得ることを目的とする.
研究方法:沿岸域のカルスト地域, 特に
鍾乳洞
内の溶食地形を淡水地下水環境の指標として地下水環境の変遷と地形形成過程を求める. 沖縄島北中部太平洋沿岸域の名護市辺野古からうるま市藪地島までの直線距離約20kmの範囲に点在する4つの石灰岩
鍾乳洞
を対象とした.
1 長島
鍾乳洞
(名護市辺野古長島)長さ30m, 標高0-5m 2 松田
鍾乳洞
(宜野座村松田)長さ1200m, 標高10-42m 3 シドゥフチムイ南洞(宜野座村惣慶)長さ100m以上, 標高10-23m 4 ジャーネー洞(うるま市藪地島)長さ200m以上, 標高10-20m
調査結果:調査した4つの石灰岩
鍾乳洞
に共通して以下のような地下水環境変遷と洞窟地形形成過程が判明した.
1) 淡水飽和帯での溶食による空洞形成
2) 地下水面降下による通気帯での鍾乳石形成
3) 地下水面上昇による淡水飽和帯での石灰岩・鍾乳石溶食
4) 地下水面降下による通気帯での鍾乳石形成(現在)
このような琉球石灰岩の
鍾乳洞
における地下水環境変遷と洞窟地形形成過程は本研究で初めて明らかにされた.
考察:1.沿岸域のカルスト地域における地下水面変動
本研究で判明した沿岸域における広い範囲での石灰岩中の地下水面の上下変動は島の隆起・沈降と気候変動による海面変動が影響していると考えられる. 現時点では
鍾乳洞
ならびに鍾乳石の形成年代が得られていないため, 変動時期は不明である.
2.沿岸域におけるカルスト地域の侵食
相対的に海面が上昇した場合, 海域に面した
鍾乳洞は海水に満たされていわゆる海中鍾乳洞
となる. しかし調査した
鍾乳洞
はいずれも淡水飽和帯で溶食されているため, これらの
鍾乳洞
は海面上昇期には海水が流入しない内陸に位置しており. 当時の沿岸域のカルスト地域は侵食されて失われたと考えられる. その規模については今後の検討課題である.
文献
浦田健作・中井達郎・木村颯・藤田喜久 2021. 沖縄県名護市辺野古崎の長島における
鍾乳洞
の地形とその形成. 沖縄地理 21:55-71.
沖縄県教育委員会 1977. 『沖縄県洞穴実態調査報告 Ⅰ 』沖縄県教育委員会.
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