北海道産及び
長崎県
産の馬鈴薯,農林1号から,再蒸溜水を用いて製造,精製した澱粉及び実験室において再精製した市販馬鈴薯澱粉についてE. HATSCHEK, H. J. POOLE等と同様の原理のレオメーター及びBrabender amylographを用いて,澱粉-水糊,澱粉-KOH糊の粘弾性率の測定,各澱粉試料の糊の光線透過率及び離液速度の測定を行つた.
また,馬鈴薯澱粉糊の流動学的性状に影響する因子のうち,電気的粘性効果を示すアミロペクチン部分の燐酸の定量,燐酸の水素イオンと置換している可能性のある金属イオンのうち, K, Na, Caの定量及び澱粉のヨウ素による青色値の比色測定を行つた.その結果は次のごとくである.
1) 各試料の5%澱粉-水糊のBrabender amylogramは相当の差異を示し, (a)北海道産の澱粉は
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産の澱粉に比較して膨潤が速く最高粘度が高い.
(b)市販澱粉(29年)は膨潤しにくく糊化が不十分である.
2) Brabender amylographによつて糊化した5%の各試料の糊の光線透過率については, (a)北海道産の澱粉は
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産の澱粉よりも光線透過率が大であつた. (b)市販澱粉(29年)はやや小であつた.
3) 各試料の糊の離液の速度は,
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産のものは北海道産のものに比して著しく速かつた.
4) Brabender amylographによつて糊化した5%の各試料の澱粉-水糊をレオメーターを用いて測定した粘弾性率は, (a)北海道産春(30年)は
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産春(30年)より弾性率,粘性率共に高い. (b)
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産(29年),及び市販澱粉(29年)は弾性のみで粘性流動はみられなかつた.
5) アルカリ糊化による各試料の長時日に亘る粘弾性率の測定から, (a)市販澱粉(29年)は29時間後に弾性率,粘性率が最高に達し,放置により急速に減少してゆくので,この澱粉が糊化に際して分散しにくく変質している. (b)
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産の澱粉は北海道産の澱粉より分散状態が悪い.これは,最高の弾性率は両者とも近似しているが,粘性率は
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産の澱粉の方が当初から高く最高値も高いので,北海道産のものの方が分散しやすいことが明かである. (c)
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産(29年)は材料が不適当で,澱粉が変質している可能性があるなどのことが推考された.
6) 馬鈴薯澱粉糊の流動学的性状に影響する因子のうち,電気的粘性効果に関係のあるP, K, Na, Caの定量を行つた結果(a) P, K, Naの含有量は北海道産の澱粉中に多く,
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産の澱粉中には少かつた. (b) Caの含有量は市販澱粉中にやや多かつたが,産地間の差は認められなかつた.
7) 各澱粉試料及びアミロース,アミロペクチンのヨウ素による青色値の測定を行つた結果,各澱粉試料間には大差がなかつた.
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